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第19話

「まだ怖い?」  完全に足のつかない岩場のあたりまでボートを走らせて、そこで海に入る。 確かに海の中は浅瀬とは比べ物にならないぐらい絶景だが、海の初心者を連れて来るところではない。 「だ、いじょう、ぶ」  運動神経皆無の伊織だが、ユキの予想に反して泳ぎだけはそこそこまともだった。 2歳から放り込まれたスイミングスクールのおかげだ。 「ここまで来たら見えねえかと思って」 言うが早いかユキは伊織にキスした。 軽い口づけだけでは飽き足らず、舌を差し入れて来る。 いくら和成たちから遠く離れたからと言って、誰がどこから見ているかわからない。 「ちょっと、ユキやめて、こんなとこで」 「花音と何話してたんだよ」 幾分凄みのある声でユキが言う。 「なに、怒ってるの?」 振り払おうとする伊織の腕をユキがねじ上げる。 「答えろよ」 「なんだよ、自分だって僕のことほったらかして遊んでたくせに」 言って伊織はハッとした。 「…それは謝っただろうが」 「ごめん…」 なんとなく気まずいまま、2人は島に戻った。  ホテルに戻ることになり、車に乗り込む。  行きは後部座席に伊織、ユキ、花音で座り、和成は助手席だったのに、帰りは疲れたから眠りたいとユキが助手席に座ることを希望した。 これ幸いと花音が伊織の隣に座ろうとしたが、和成が真ん中に座ることにした。  早々にユキは腕を組んで眠り込んだ。 何かがあったのは誰から見てもわかること。  和成は隣の伊織を見やる。 車窓から外を見ているかのようだが、その実景色など目に入っていない。 その横顔からはなにを考えているか計り知れなかったが、誰もがつい触れたくなって手を伸ばしてしまうのもわかる、危うい魅力がある、と和成でさえ思えた。

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