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第20話
ホテルに戻っても2人はそのままで、こんなことなら別々に仕事をしている方がマシだとユキは思った。
同室なのが辛い。
夕食の後、シャワーを浴びるとユキは部屋から出ていった。
もちろん伊織にはなにも言わず。
伊織は翌日のため、帰り支度の荷造りなどをしてみたが、もともと身一つでやってきたのであっという間に済んでしまった。
1人の部屋は、広い。
ユキがいて当たり前のこの部屋に、ユキがいないのが耐えられない。
ユキは家族の部屋にいた。
珍しがる家族に、最後の夜だからとユキは調子よく笑っていたが、和成は笑えなかった。
「高杉くんは?」
「今晩ぐらい家族水入らずも悪くねえだろ」
心なしか不機嫌な口調で答え、父たちと一緒にテレビを見だした。
伊織は外の空気を吸いに、ホテルから少し離れた砂浜を歩いていた。
降ってきそうな星たちを見上げる。
最後の夜、こんなふうに過ごしているなんて。
昨日はあんなに幸せいっぱいで、一緒に夜空を見上げていたのに。
波打ち際でぽつんと突っ立っていると、自然と涙が溢れてきた。
やっぱり、どこまでいっても、ひとりなんだろうか。
もう、ユキは僕のこと要らないんだろうか。
一緒にいながらこんなに長いこと口をきかないのは初めてだ。
どうして最近ユキはよく怒るんだろうか。
何も悪いことしてないのに。
「あれ?あそこのホテルのバイトの子じゃない?」
大学生風の男4人がフラフラと歩いてきた。
「わぁマジだ!あの美人くんだろ?こんな時間に一人でどうしたの、てか絵になるねぇ」
従業員だと思われている以上、あまり失礼な態度も取れず、愛想笑いで会釈する。
「よかったら俺らと遊ばない?今からドライブでも行こうって言ってたとこ」
いつもなら速攻断るが、なんだかそれもめんどくさい。
もうユキが要らないなら、自分なんかどうなってもいい。
気晴らしになるかもしれないし、一人でいるよりよっぽどマシかもしれない。
コクンと頷くと4人は歓声をあげて、伊織の両腕を左右から組み、歩き出す。
「やっぱり綺麗な子はいい匂いするよ〜」
一人がクンクンと伊織の耳や首のあたりを嗅ぐ。
「えっ、マジで」
反対側の男も同じように逆側を嗅ぐ。
何をされても無抵抗、無反応の伊織に、
「もしかして、どんどん進めちゃっていい系展開?」
男たちの双眸に欲望が灯る。
その時。
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