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第21話

「失礼いたします、手前どもの従業員が何かご迷惑でも」 周辺を巡回中だった副支配人ーユキが佐倉と呼んでいたーがたまたま目撃し、声をかけてきたのだった。 「い、いや、何もないっす!」 男たちはヘラヘラと笑いながら去っていった。 「…高杉くん、何やってるの。私が通りかからなかったらどうするつもりだったんだい」 厳しい目と口調で伊織に向き直り詰問する。 「べつに、どうするつもりも」 その目を見ずに伊織は答える。 「どうせくだらない痴話喧嘩でもしたんだろう、ユキ坊ちゃんも頑固だから。だけどそんなことで、ヤケになっちゃいけない」  くだらない、そんなこと。 自分とっては大事なことなのにそんなふうに言われ、伊織はカッとなった。 「か、関係ないじゃないですか、あなたには…」 そこまで言った時、冷ややかな佐倉の手が伊織の頬に触れた。 「ほっぺに涙の跡つけて、いきがりなさんな。ユキ坊ちゃんよりもまず、自分のことを大切にしなきゃ」  佐倉の口調は柔らかくなったが、伊織の表情は緊張に支配された。 頬に伸びた手はそのまま首筋まで下り、 「…それから、弱っているところに漬け込む悪い大人がいることも、覚えておいたほうがいい」 低い声でそこまで言うとぱっと手を離し、送りましょう、といつもの笑顔で言った。  ユキは惰性でテレビを見ている。 というか、テレビの内容も頭に入っているのかどうか。 花音と母親はとっくに寝室へと移動し、だらだらと晩酌を続ける父、だらだらとテレビを見るユキ、そして和成が残っていた。 「ユキ、そろそろ部屋へ戻れよ。明日発つんだろ」 「んー」 返事もそこそこにテレビから視線を外さない。 「高杉くんのところへ行ってやれって言ってるんだよ。一人ぼっちなんだろ?」 「さあな」 「お前には逃げ場があるけど、あの子にはお前しかいないんだよ。それとももういいのか?花音に譲ってやる?」  ようやく、ユキが和成の方を向いた。 かっと目を見開き、掴みかかりそうな勢いで。 「誰が…っ」 「声が大きい。父さん起きるだろ。誰にも譲る気ないなら、逃げてないでちゃんと仲直りしろ。後釜狙ってるやつはいくらでもいるんじゃないのか?」  兄貴はいつも正論だ。 いつも負けた気になって、それが腹立たしい。

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