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第22話
部屋に戻ると、伊織がいない。
一人で半べそかいて待っていたなら、少しは優しくしてやったのに。
不貞腐れて歯を磨き、ユキはそのままベッドに潜り込んだ。
伊織が部屋に戻ると、ユキはすっかり眠っていた。
「戻ってたんだ…」
ほっとしたように小さく呟き、しばらく迷った後、同じベットに入る。
ユキの体温。ユキの匂い。
なんだかとても久しぶりのような気がする。
背を向けて眠るユキの背中に、恐る恐るくっついた。
背中の感触に目を覚ましたユキ。
相変わらず可愛いことを、と思った次の瞬間、はっとした。
佐倉の匂いがする。
佐倉のタバコと香水の匂いが、ほんの僅かに。
「何してたんだ」
呻くように言うと、ユキは寝返りを打って伊織の方を向いた。
「えっ」
「何してたんだってきいてんだよ」
「えっと、散歩?」
「誰と」
「ひとりで…」
大きく溜息を吐くと、またユキは背を向けてしまった。
やっと口をきいてくれたと思ったら、また怒られた。
そしてまた、口をきいてくれなくなった。
こんなの、もう嫌だ。辛くてたまらない。
「ユキ、ききたいことがあるんだけど」
とんとん、と背中を叩いてみるが、返事はない。
伊織は大きく息を吸った。
「昼間と一緒で、先にユキが俺置いて一人でどっか行ったんだろ?!なんで怒られるんだよ!!なんでユキこの頃怒ってばっかりなんだよ、俺ユキに怒られるようなこと何もしてないのに!」
ユキが今まで聞いたことのない音量、そして口調だった。
慌ててユキが向き直ると、伊織は目に涙をためて顔を真っ赤にし、ユキを睨みつけていた。
「なんで怒ってるのか教えてくれなきゃわからない、ちゃんと言って!もう要らないんだったら要らないって言ってよ…!」
「要る」
ユキは伊織を力いっぱい抱きしめた。
「誰が手放すか。これは俺んだ」
やっとユキの愛に触れ、猫が喉を鳴らすような表情でうっとり抱かれていた伊織だったが、そっとユキの腕から抜け出して言った。
「ねえ、なんで怒ってたのかきかせて?じゃないとまた同じことで怒らせてしまう…」
ユキはばつが悪そうにしばらく黙っていたが、伊織の催促の視線に耐えきれず、話し始めた。
「…多分アレだ、しょうもないヤキモチってやつだ、自分でもみっともねえ。お前と付き合う時、いや付き合う前からわかってたはずなんだけどな。…言えって言うから言うぞ。俺は、お前がどこに行ってもモテすぎて、胸糞悪りいんだよ」
赤くなって頭をボリボリ掻きながら、心底恥ずかしそうにユキは吐き捨てた。
「ヤキモチ…?」
よくわかりませんという顔で首を傾げている。
またも伊織の無知発生だ。
「だーっ、お前が他の奴と一緒にいたり話したりしてたら、なんかムカつくってこと!言い寄ってくる奴にはもっとムカつくってこと!説明させんなよ恥ずかしいな!」
ついにまたユキは背を向けてしまった。
でもさっきみたいな悲しみは伊織にはもうない。
誰だって、そんなふうに思うんだね。
自分だけじゃ、なかったんだ。
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