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第11話 酔いどれの告白1
(なごみ語り)
あれから毎日渉君から生存確認のような電話が来るようになった。僕が朝起きる時間と、渉君の仕事が終わる時間に決まって連絡が来る。時間があるときは、くだらないことを話して笑ったりもした。
僕が居ない時に美味しいパンやおにぎりを袋に入れてドアノブにかけていくこともあった。本当に保護者というかお母さんみたいだ。ちょっとオネエ寄りだから、お母さんという表現が当てはまる。渉君が面倒見がいいのは知っていたけど、ここまでとは知らなかった。
ちなみに、渉くんも僕と同じゲイだ。彼の患者になってすぐに見破られた。
木曜日、会社のエレベータホールで大野君に会う。大野君の部署は上の階にあるため、あまり見かけることはない。彼は僕を見かけて安心したように笑った。
「なごみさん、やっと見つけた」
僕を探してたのか……ずっと席にいたけど、直接行くのは気が引けたのかな。確かに大野君が僕の部署に入ると嫌でも目立つだろう。
大野君は、パッと明るい花火のような、花のような、とにかく輝いて見える。髪の毛も自然に明るく染めていて、さらに彼を華やかにしていた。
「それなら電話をくれればいいのに、何か困りごとでも?」
「違いますよ。なごみさんに用がある時は、困っている限定みたいじゃないですか」
いや、実際そうだし……と黙って疑いの目を送ってみた。
「あの……明日の約束覚えてますよね」
明日……?何か約束したっけと頭にハテナが浮かんだ。
「やっぱりその顔は忘れてますか。焼き鳥ですよ。なごみさんが食べたいって言ったじゃないですか」
「あっ、あー、思い出した。パソコンが壊れた時の約束だ」
「そうです。確認してよかった。お店の予約が取れたんで、何時に待ち合わせしましょうか」
7時に会社のビルのロビーで待ち合わせることになった。電話で確認できる内容なのに、わざわざ会いに来るなんて大野君は暇なのだろうか。営業は忙しいはずだ。
金曜日は渉君が来る予定だったけど、先約があった旨メールで伝えると、次の日の朝に行くね、と返信があった。僕の面倒ばっかり見ているので、申し訳ない気持ちがいつもあった。
渉君もたまにはゆっくり休んで欲しい。
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