12 / 270

第12話 酔いどれの告白2

(なごみ語り) 大野君が予約してくれた焼き鳥屋さんは、大将と女将さんで切り盛りしている常連さんで賑わうあたたかな店だった。大野君も常連らしく、店の人と慣れた感じで話している。 誰とでも仲良くでき、人懐っこくて甘え上手な彼を微笑ましく眺めていた。僕達はカウンターに並んで座り、注文した生ビールを心地よく煽った。 「なごみさん、ビール飲むんですね。イメージにない」 「それって何のイメージ?」 「なごみさんは何とかサワーみたいな」 なにそれ……勝手な彼の思い込みに笑うと、大野君もつられて笑った。くしゃっとした彼の笑顔にドキッとする。何だろう……このドキドキ。久々に誰かと外でご飯を食べるから緊張しているかもしれないと、深呼吸をした。彼はただの後輩だから意識する必要はない。 「それでは、乾杯しましょう。えーと、いつも俺を助けてくれてありがとうござ………」 「長いから、端折ります。乾杯」 僕は途中でグラスをカチンと合わせた。 「えーー、まだ言いたいことがあるのに」 「いい。後でいっぱい聞くから。それよりお腹すいた」 ここの店はお任せコースだけでメニューが無い。出てきたものを順番にいただくシステムだ。目の前には焼きたての串が数本並んでいたので、その中から一本選んで口に運んだ。口の中でホロりと解ける鶏肉が美味しい。 「あっこれ、うまぁい。おいひい……」 僕の言葉を聞いた大野君の顔がパッと輝いた。 「ねっ、ねっ?おいしいですよね?ここのサイコーなんすよ。なごみさんがおいしいって言ってくれて良かったぁ。大将、掴みはオッケーです」 なんか……喜ぶ姿が犬みたいで、彼の動作が動物に見えてくる。僕は忘れないうちにお礼を言っておくことにした。 「ありがとう。連れてきてくれて。大野くんも助けておくもんだね」 「いえ、俺もすごく楽しいです。またよろしくお願いします」 大野君が照れたようにはにかんだ。表情がくるくる変わって飽きないので、いじらしくなる。 僕はたまらなくなって思わず彼の頭を撫でていた。見た目よりは細く柔らかい髪が手でくしゃくしゃになる。 「大野君、犬みたいだね」 「えっ……犬っすか」 「うん。犬。茶色の大型犬」 「犬って動物じゃないですか。せめて弟とか近所の子供とかにしてくださいよ。困ったな」 大野君は真面目に答えていたけど、やっぱ犬にしか思えない。 「いいじゃんペットみたいで」 「では、是非なごみさんのペットにしてください」 「うちはペット禁止だから駄目なの、ごめんね」 えへへ、と僕は笑う。 大野君ならペットにしてもいいかなと、ほろ酔いの頭で思った。

ともだちにシェアしよう!