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第14話 酔いどれの告白4
(なごみ語り)
横に座っている大野君の視線を痛いくらいに感じていた。
「彼女はいないよ」
「じゃあ、以前はいたんですか?」
僕は正直に言った。
果たして泣かずに説明できるのだろうか疑問だったが、酒の席だしなんとかなると思った、
次に来る質問もだいたい予想ができたので、難なく答える。
「夏ぐらいに別れた。大野君と同じで振られたんだ」
渉くんのお陰か、泣かずに説明することができた。大野君は少しの間考えて、口を開く。
「じゃあ、この間、泣いていたのはその人のせいなんですか?」
たぶん……大野君はこれが一番聞きたかったことだろうと思った。そのために佐々木さんとのことも話してくれたのだろう。涙の訳が気になっていたらしい。
そうだよ。
会いたくて、幸せだった頃を思い出しては泣いている。諒が僕を愛してくれた時間はどんなに願っても戻って来ないと、頭では分かってるのに求めてしまう。
身体が、心が、諒を欲している。
僕はまだ諒が好きだ。
きっと新しい恋なんてものが必要ないくらいに諒が好きだ。好きで、好きで、しょうがない。
二度と満たされることがない僕の想い。
大野君の質問に、僕は答えることができずにいた。諒への想いがまだ僕の中で生きている。しかも、その想いは日々膨らんでることを噛み締め、涙を堪えて、深呼吸をする。
「それは秘密………後は想像に任せる」
その一言が精一杯だった。
「なんですかー、秘密って。あの時めちゃくちゃ焦ったんですから。なごみさんが泣いてて俺のせいかと思ったんですよ」
「ごめん。あの時は寝不足で疲れてて、どうかしてた。大野君とは全く関係ないから」
「ならいいんです………あ、女将さん、ビールお代わり下さいー」
大野君が普通に流してくれたから、これ以上深入りされることもなく救われた。その後、話題は大野君の新しいプロジェクトへ移り、二度と触れられることはなかった。
料理は美味しくてお酒も進み、一軒目で半分以上出来上がっていた大野君は、二軒目で完璧に酔ってしまい、一人で帰れないくらいぐでんぐでんになっていた。
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