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第30話 大野となごみ2
(なごみ語り)
翌日。視察へは僕と大野君、同期で営業の寺田と三人で行くことになった。
イベント会場予定地へは大野君の運転で社用車に乗って向かう。助手席に寺田が座ったので、僕は後部座席で一人悠々と腰掛ける。
海沿いの高速道路から流れる景色を眺めていた。仕事が無ければ純粋に楽しめるのに、残念な気持ちでキラキラ光る水面を目で追う。太陽は燦々と輝き、僕とは全く違う時間が流れていた。時々、何のために仕事をしているのか分からなくなる。四季を体感して過ごすのも人間には必要な気がするのだが、いかんせん疎くなってしまう。
寺田と大野君は仕事の話をしていた。僕には関係の無い顧客の話はBGMのように内容は頭へ入ってこなかった。
「それで、和水は彼女いないの?」
いきなり寺田に話を振られて我に返る。
は?え?仕事の話をしてたんじゃないのかと、慌てて思考を元に戻した。
「……いないけど」
「じゃあさ、大野と話してたんだけど、今度コンパしようかと思ってるんだ。大学ん時の友達に声掛けてて、人数が集まりそうなんだ。和水って女子受けがいいから来てくれると助かる」
女子とコンパ……なんて意味のない時間と思った。きっと苦痛に違いない。だが、付き合いには必要かと、無下に断るのは躊躇われた。相槌打ってればそのうちに終わるだろうし、偶には行ってみようかと了解の返答をしようとした時だった。
「あ、あの……なごみさんは忙しそうだし無理じゃないですか?」
と、大野君の声が聞こえてきた。
バックミラー越しに大野君と目が合い、ずっと見られていたのではないかと視線にドキっとする。変に意識して焦る僕が居た。
「仕事なんてどうにでもなるだろ。大野は、和水が来ると女子のテンションが上がって落としやすくなるの知らないの?同期では有名な話なんだが」
有名なんて聞いたこともない。仕事も忙しく毎日残業なので、コンパには殆ど行かないし、同期ともそれほど交流がないのが事実だ。
「でも、なごみさんだって都合があるし、無理やりはちょっと……」
「大野は和水に来て欲しくないの?彼女作りたくないのか」
「いや、俺は別に……そこまで言ってませんけど、忙しそうだなあって思って」
「呼びたくないならそう言えよ。感じ悪いんだけど」
二人の間に険悪な空気が流れはじめ、寺田の機嫌がだんだん悪くなってきていた。寺田は短気なのだ。しかも怒らすと怒鳴り散らすのでタチが悪い。
「……別にいいよ、行っても」
見かねて僕は行くと返事をした。大野君は寺田に勝てる訳がない。コンパは無意味な時間なだけで、そこまで嫌ではないのだ。
「お、それじゃあ決まりで。大野はあんまり和水を困らせるなよ。残業が増えてコンパに行けなくなるから」
「はははっ、それはその通りだ」
「すみません……努力します……」
全くその通りで、僕は寺田の言葉に笑った。
そして、車はイベント予定地に到着した。
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