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第33話 コンビニ店員1

(コンビニ店員 中村誠語り) とある日曜の朝10時、俺は家へ帰る途中だった。 交代する予定の店長が寝坊で遅れてきたので、上がる時間が遅くなってしまった。12月に入って朝は冷えるようになり、上着も分厚いものになる。眠くて身体が非常に重たい。早く風呂に入りだらだらと過ごしたかった。 (あれ……ってもしかして……?) 駅前を足早に通り過ぎようとした時、カフェの窓際になごみさんを見かけた。姿を見掛けるのは、この前の深夜のコンビニ以来だ。 なごみさんは、本を読みながらコーヒーを飲んでいた。思わず目で追ってしまう。あまりにも俺が見つめすぎたのか、ひらひらと手を振られた。 そして俺は吸い込まれるように店内へ入っていく。俺って……何だろうか。疲れと逆行して期待で胸が弾んだ。 「おはよう。バイトの帰りかな。朝までお疲れ様」 「おはよう……ございます。バイト終わりです」 「良かったら隣にどうぞ」 隣の席に鞄を置き、俺は飲み物を注文しに行った。普段はこんな所でコーヒーなんか飲むことがない。俺なんかコンビニコーヒーで充分なのだ。よく分からなくてメニュー一番上にあるカフェなんとかを頼んだ。香ばしいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、特別な気分になる。コーヒーって値段をかければそれなりにいい香りがするらしい。 「あ、あの、ここにはよく来るんですか?」 なごみさんは、深い緑色のセーターを着ていた。きっと何を着ても似合うのだろうけど、とても雰囲気に合っている。思わず目が合い、恥ずかしくて逸らしてしまった。 「まあね。時々ゆっくりしたくて来るよ。疲れている時は余計にこういう時間が必要なんだ」 「そうですか。いいですね、ゆったりした時間も大切です」 なごみさんはパタンと読んでいた本を閉じ、コーヒーを口にした。読書の邪魔をしちゃったかなと申し訳ない気持ちになったが、俺も真似して飲む。 カフェなんとかは砂糖を入れすぎたため、激甘だった。

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