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第38話 なごみと過去4
(なごみ語り)
諒とは、渉君の鍼灸院で出会った。
4年前……僕が大学3年生の頃、趣味で続けていたバスケットで右肩を痛め、外科的な治療は完了したものの不調が続いていた。そんな僕に大学の先輩から紹介されたのが、渉君だった。
鍼灸は僕の身体と相性が良かったようで、2ヶ月通ううちに、すっかり不調が無くなっていた。
毎週金曜日の夕方に予約を取って鍼灸院へ通う。その時に、毎回待合室で見る背の高い人がいた。無愛想でいつも大きな鞄を持っており、僕はその人が怖くて、遠巻きにこっそり観察をしていた。
眉間にはいつもシワが寄っているし、口もキュッと結んだままで、俯いて難しそうな本を読んでいる。
鞄には何故か黒いネコのキーホルダーがぶら下がっており、見た目とのギャップに内心驚いていた。
大学生の頃、僕は自分の性癖に悩んでいた。
男しか好きになれなくて、性の対象も男だった。
自分が人と違うこと、好きな人から振り向いてもらえないこと、行き場のない想いはいつも僕を憂鬱にしていた。他人に相談もできずに、自らの心の殻に閉じ篭る方法でしか自分を守る術を知らなかったのだ。
ある日、治療が終わって鍼灸院から帰ろうとした時、道端でネコのキーホルダーを見つけた。
ポツンと悲しそうに転がっており、あの人が落としたんだなと、すぐピンと来た。
僕はとりあえず拾って、家へ連れて帰ることにした。
また難しい顔して座っているだろうから、次に治療院で見かけた時に渡そうと思った。
黒いネコのキーホルダーは、今でも鮮明に思い出すことができる。
あまり可愛いとは言えない、黒いぶさネコだ。
それが諒と僕の始まりだった。
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