（なごみ語り） 雪の日から２週間後の火曜日に、駅前で諒と待ち合わせをした。 諒に写真を撮らせて欲しいと言われ、気の迷いかもしれないから連絡が無ければ忘れようと決めていた。期待するとダメになった時の心傷が半端ない。僕は無理に期待しないよう、自らの気持ちにブレーキをかけていた。この癖は社会人になった今も抜けていない。 僕の予想に反して諒からはその日の夜にメールが来る。携帯を持つ手が思わず震えた。 気の迷いじゃなかったんだと嬉しくて泣いた。 待ち合わせ時間から15分も前に来た僕は、緊張でガチガチだった。変に意識するから駄目なんだ。ただの友達と思えばいいと、立ったまま暫く固まっていた。 諒の姿が見えると、呼吸もままならなくなる。 「り、諒さん、よろしくお願いします」 「おはよう。お願いしますはこっちの方だよ。今日は最初だから、話しながら撮っていいかな。公園を歩こうか。普通にしてくれれば、こっちが勝手に撮るんで気にしないで」 僕は全く写真の知識が無く、写真はスタジオで撮るものだと思っていて、諒が提案したものとは想像と全く違った。自然の僕が撮りたいからと諒は言う。 「カメラは気にせず、俺と普通に散歩していると思えばいいよ」 「……分かりました。僕にできるかな」 気にしないなんて、絶対無理だ。今だって意識しまくりなんだ。 「大丈夫だって。さ、行こう」 「は、はい……」 僕は広く大きな背中を追いかける。 諒は、いつもの大きなカバンではなく、首に一眼レフのカメラをぶら下げた軽装だった。 冬の割にはポカポカ陽気で、日差しが気持ちいい。もうすぐそこに春は来ていた。諒にカメラのファインダー越しから見つめられて、恥ずかしくなるけれど、なんだかくすぐったくて心地がよかった。