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第48話 なごみと過去14

(なごみ語り) 夜中の暗い山道でライトを照らしながら諒と歩いた。 元々標高が高いこの場所は、空気が澄んでいて普段でも星がたくさん見えるらしい。煙のような瞬きが僕達を控えめに照らしている。こんなにたくさんの星をプラネタリウム以外で見たのは初めてだった。 「もうすぐだから、気を付けて」 「はいっ」 急な斜面を登るとき、諒が力強く引っ張り上げてくれた。さり気なく手を繋いじゃったと内心嬉しかったのを覚えている。 しばらく歩くと急に拓けた丘へ出た。 360度空が見えて、まるで円形劇場にいるようなそこは、空が綺麗にまあるく切り取られている。 ここで、諒が高校生の頃までは考え事をしたり昼寝をして自分と向き合っていたそうだ。例の写真は更に空気の澄んだ冬に撮ったもので、辺り一面雪で覆われていたから、大変だったと諒が話してくれた。行くのも待つのも命懸けだろう。 敷物を敷いて、持ってきた軽食を食べる。 諒のお母さんが作ってくれたおにぎりとお味噌汁をいただいた。お腹が温かくなり、灯りが燈ったような幸せな気持ちになる。 「それにしても晴れて良かった。曇りだと何にも見えないから、晴れるのを待つだけでも大変なんだよ。なごみ君はきっと晴れ男だな」 話を聞きながら諒が設置している三脚を眺めていた。晴れているが風はそこそこ強いため、夜の山はしんと冷えている。僕は身震いした。 「寒い?ほら、これ羽織って」 諒がリュックから毛布を差し出してくれた。 「ありがとうございます」 遠慮なく毛布に包まる。僕は晴れ男じゃないと思う。晴れ男なのはきっと諒だ。現に、彼と待ち合わせた休日は殆ど晴れていた気がする。 間もなく三脚を設置し終わった諒が、隣に来るかと思いきや僕の後ろに座った。 「毛布、1枚しか持ってこれなかったから、俺も入れて」 「えっ?あっ?へっ?うしろっに……?」 変に焦って動揺してしまう。 「嫌かな」 諒の声が僕のうなじ越しに聞こえる。 心臓が……保たないよ…… 「は、あ、い、いいです……けど」 「じゃあ、おじゃまします。うわ、あったけえ」 諒がものすごく近くにいて、空どころじゃなくなった。すぐ後ろの同じ毛布内に好きな人がいる。二人で会うのも最後になるかもしれないけど、確かに僕は諒へ恋をしていた。

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