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第49話 なごみと過去15
(なごみ語り)
諒の息遣いを背中に感じていた。赤くなった顔を見つからないよう必死で隠す。
「なごみ君、写真を撮らせて欲しいなんて、突拍子もないお願いをきいてくれてありがとう。楽しかったし勉強になった。就職活動頑張ってね。決まったらお祝いしよう」
「僕も楽しかったです。こんな所までつれてきてもらって、いい思い出になりました。写真はまだ苦手ですけど……」
「やっぱり撮られるの苦手だったよな。無理させてごめん」
「いやいや、これでも大分マシになりましたから」
本当はこれで疎遠になる気がしてしょうがなかった。諒は忙しいから、毎日の喧騒に飲まれて僕のことを忘れてしまう。
それは嫌だった。
思わず下唇をきゅっと噛む。
本当は友達でもいいから時々会って欲しい。
撮った僕の写真を見せてください、とか口実は沢山あるのに言い出す勇気が無かった。言葉にしたらすべてが夢のように溶けてしまうんじゃないかと思った。それくらい自分と諒の繋がりは脆くて、取るに足りないものだ。
しばらく無言で空を眺めていた。
近いようで遠い、諒との距離。
涙で空が滲み、僕は黙って静かに泣いた。
「あ、なごみ君、見て。始まったよ」
空の端っこが薄っすらと明るくなり、夜明けを迎え入れ始めた。反対側はまだ星が瞬いている。待っていた時間が訪れたようだ。
諒は毛布を出て、リモコンでシャッターを押し始めた。真剣な目でファインダーを覗いたり角度を変えて連打している。
空が濃紺と橙色が混ざり始めて、雲を染めて行く。夜明けってこんなに神秘的なんだ。
今まで見たどんな空より綺麗で、圧倒的な自然の迫力に僕は言葉を無くす。時が止まったみたいだった。
隣には諒がいて、僕がいて、空を見上げていて、ただそれだけで充分だった。
雄大な自然の前に、ちっぽけな僕の悩みなんかどうでもいいと思えた。縮こまっていた気持ちが空の力により表へ出ていこうとしていた。
諒が好き……
今言わないと今後一生言えない。
そんな気がした。
「あの……諒さん……」
「何?」
ファインダーを覗きこんだまま諒が答えた。
僕はぐっと拳を握り締める。
「…………僕はあなたが好きです」
生まれて初めての告白は空に背中を押されてやっと言えた。その瞬間、胸のつかえが取れた気がした。
これで次に進めると自己満足で終わろうと思っていた。
「今……なんて……」
シャッター音が止み、辺りは静寂に包まれた。諒がこっちを見ている。
「あ、い、いや、今のは忘れてください。気持ち悪いですよね。僕が言いたかっただけなので。ごめんなさい。ほら、空撮らないと、シャッターチャンス逃しちゃいますよ。」
正直に白状すると、伝えたことで自己完結していた。
どうせ否定されると思っていたから、諒の気持ちは全く考えていなかった。
自分勝手で人を振り回し、なんて傲慢な行動だろうと今では冷静に判断できる。
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