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第54話 恋人と友達の境目2

(渉語り) 洋ちゃんは難攻不落の要塞のようだ。 とにかく落ちない。 恋愛信号を送ってもあっさり無視される。 体全体が恋することを拒否しているようだった。 以前、僕が好きなことをやんわり伝えると、困った顔をして軽く流された。そんな顔をされると何もできなくなる。迫って嫌われたらもっと泣きたくなるので、僕は恋愛モードを封印して、3ヶ月間友達として洋ちゃんと接してきた。 だけどもう限界が来ていた。 今夜、それとなく推してみて脈が無かったら、きっぱりと手を引くことに決めた。僕の行き場の無い宙ぶらりんな気持ちが痛くて辛い。 あの大野とかいう会社の後輩も苦戦してるはずだろう。だから、大野に洋ちゃんを譲る。 せいぜい苦しむがよい。どうせ、大野ごときに洋ちゃんが落ちるはずないだろうから。 恋愛戦闘モードに入った僕は無性に肉が食べたくなり、焼肉をリクエストした。牛肉は極力摂らないようにしているから、僕の選択に洋ちゃんは驚いている。 今夜は勝負だから肉を食べて頑張ろうという気合いの表れだ。 「かんぱーい」 これまた普段飲まない生ビールを一気に流し込んだ。 特に生ビールは身体が冷えるから、いつもは焼酎や日本酒を好んで飲む。偶に飲むビールも悪くないな、と煽りながら思った。 洋ちゃんと並んで七輪を囲む。 肩が触れるか触れないかの距離にさえ、今の関係を象徴しているようで悲しくなった。 ほんの少しでもいいから、恋愛に興味があるならば僕も頑張れるのに……切ない。 「渉君、どうぞ。サラダ好きでしょ」 「ありがとう」 洋ちゃんがサラダを取り分けてくれた。 綺麗な指だな、と思いながら横から眺める。 「洋ちゃん、平日はもっと早く帰れないのかな。僕がいなかったら絶対疲労で倒れてるよ。そのなんとかプロジェクトはいつ終わる?」 「うーん。これで精一杯早く帰ってる。渉君には本当に感謝してるよ。僕には渉君がいるから、平気なの。プロジェクトは夏前に終わる予定だよ。あ、これ焼けてる、ほら」 僕の皿に焼けた肉を入れてくれた。 洋ちゃんと僕の、似たような外見の2人が寄り添うようにご飯を食べてる状況に幸せを感じた。 僕がいなかったらたぶん疲労で入院していただろう。頑張り屋で、頑固で、だけど優しい洋ちゃん。 やっぱり諦めきれない。 恋愛……したくないのかな? ずっと前から居ないのに、僕も洋ちゃんも諒君の影に苦しめられている。

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