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第57話 恋人と友達の境目5

(渉語り) 僕の好みのタイプは、背が高く男らしく年上で、余裕を身に纏って仕事ができる榊さんみたいな人だ。 そういう人を陰から支えるのが好きだった。 だから性格が少々ガサツでも構わない。 私生活をフォローしてあげて、僕がいないと何もできない状況を作り、離れ難くするのが僕のやり方だ。 大抵の人はこれで僕になびいてくれた。 榊さんも類に漏れず落ちたのに、洋ちゃんは僕のやり方が全く通じないから苦戦している。 なんだか榊さんが洋ちゃんを遠目に眺める目がいやらしく思えたので、挨拶も早々に自分の席へ戻る。洋ちゃんは榊さんの迷惑な肉を焼きながら笑顔でおかえりと言ってくれた。 「あの人、もしかして前の彼かな。男らしい年上の人だからすぐ分かったよ。渉君の好みのタイプだ」 付き合いが長いと好みのタイプまで把握されている。 もはや否定する状況ではなさそうだった。 榊さんの話題はなるべく短く終わらせ、早くこの場から離れてから仕切り直して告白をするんだ。僕はまだ諦めていない。 「そうだよ。ずっと前のね……5年も前だからほとんど忘れちゃった。今の今までそんな人がいたことすら覚えてなかったよ」 ふふふ、と笑いながら流そうと思った。 洋ちゃんに榊さんは過去だと強調して、今は別の人を見ているのだとアピールしたかった。 「誰を忘れちゃったって?それは悲しいな。初めまして榊と申します。渉の古い友人です」 いつの間にか榊さんが、洋ちゃんの隣に座り、名刺を差し出している。 「ちょっ……………」 「初めまして。渉さんの友人で和水 洋一と申します。今日は名刺を持ってなくて、口頭ですみません」 「いえいえ、こちらこそお食事中に失礼しました。渉の大切な友達と聞いたので、どんな方か見てみたくて来ちゃいました。男性にこう言っちゃ失礼かもしれませんが、可愛い方だ」 榊さんは悪戯っぽく洋ちゃんに語りかけた。 「榊さん……何しに来たの?」 「5年ぶりに再会したのに随分冷たいな。この後、良ければヒデの店に行かないか?もちろん、洋一くんも一緒にね。ヒデも渉に会いたがってるよ。体がバキバキだっていつも言ってるし」 榊さんによく連れて行ってもらったバーがこの近くにある。榊さんの同級生がやっている小さいけど洒落たバーだ。 「渉君……どうする?いいの?」 洋ちゃんと榊さんが同時に僕を見る。視線が痛々しかった。洋ちゃんは何も疑わず榊さんを受け入れたようだ。素直すぎるのも心配なのに、屈託ない笑顔を見せている。 「………別にいいけどさ、今日は商売道具持ってないから治療できないよ」 非常に良くないけど、そう答えるしかなかった。

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