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第60話 恋人と友達の境目8

(渉語り) 「榊さん、やっぱり僕って魅力ない?報われない恋をして、相手に尽くして、虚しい奴に見えたりする?」 半分絡んで、半分本音だった。 決して最初は見返りを求めて始めたわけではない。 諒君と別れてボロボロの洋ちゃんを見ていられなくて、純粋に助けたかった。 僕は随分前から洋ちゃんに好意を持っていたし、いつか振り向いてくれたらいいなと軽い気持ちで始めたことだ。それが、洋ちゃんに後戻り出来ないところまで惹かれて彼の見返りが欲しくなっていた。 欲しいものが大きすぎて僕には手が届かないのは分かっている。 報われない自分が惨めで、いっそのこと洋ちゃんの前から消えたいけどそれができない。 離れたらもっと辛くなる。 身を引き裂くような切なさに耐える自信は無い。洋ちゃんに会えなくなって身体に触れることができなくなるのはもっと嫌だった。 涙がぽろぽろこぼれる。 僕は榊さんの前で声を出して泣いた。 カウンターの向こうでたぶん洋ちゃんも見てるが、訳が分からなくなっていた。 どうしたらいいのか分からない。 こんなに酔ったのも初めてで、収拾の付け方も不明だ。 「渉……そんなに辛いなら、少し休んだらいい。おじさんで良ければ、いつでも抱くよ」 榊さんがおじさん……5年は短いようで長い。 見た目は本当におじさんに近くなった。 「ぐすん………榊さん、そういうのはいらない」 まともに受けて一緒に悲しんでくれるより、榊さんの中途半端なふざけ具合が今の僕にはありがたかった。 「さっき言ったことは本当だよ。俺だって渉とやり直したいと思ってる。報われないを恋をしているのは君だけではないからね。世の中にごまんといるよ。それに恋は悲劇だけではないだろう」 榊さんが優しく僕の肩を抱き、囁いた。 「じゃあさ、今から洋一君と2人にしてやるから告白してこい。自分の気持ちをしっかり伝えろ。すっきりするだろう」 「えっ、無理無理。心の準備ができてない」 「どうせ近いうちに言うつもりだったんだろう。今からでも変わらないから。駄目だったら、この後俺とホテルへ行こう。とろっとろに慰めてやるよ」 振られる前提で話してくるので、少し腹が立った。 「うまくいったら、どうすんのさ」 「うーん、祝福するよ。ぶっちゃけ、うまくいくと思ってるの?」 「………むかつくけど、絶対にうまくいかないと思う」 「はい、じゃあ、洋一君にフラれておいで。そして、俺に戻ってこい。失恋した傷を癒してやるよ。頑張れ渉。おーい、洋一君、渉が話したいことがあるってさ」 榊さんの思いつきのような発言で、僕は洋ちゃんに想いを伝えることとなった。 どうせ砕けるなら早いうちがいいかな、と酔った勢いで自暴自棄になっていた。

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