（渉語り） カウンターの隅で、僕は洋ちゃんと隣同士で座っている。 榊さんの思いつきで、店内に2人きりだ。ヒデさんと榊さんは外でタバコを吸いながら僕の告白が終わるのを待っている。幸いなことに他のお客さんは居なかった。 ここまでお膳立てしてもらったんだから、当たって砕けようと腹を決める。 僕は震える声で洋ちゃんに話し始めた。 そして、ロマンチックでもなく、色気も無いけれど、本気の愛の言葉を紡ぎ出した。 告白なんていつぶりだろう。 忘れるくらい昔のことで、記憶に無い。 「うんと……あの、洋ちゃん」 洋ちゃんがこっちを向いた。 綺麗なまあるい瞳が僕を見ている。 「僕は、洋ちゃんが……好き……です」 こういうのは恥ずかしがると余計に緊張して口が回らなくなるから、他のことは考えず、伝えることに集中する。気の利いた前置きは用意出来なかった。 「うん」 洋ちゃんが頷きながら相槌を打ち、黙って話を聞いてくれる。僕の話を静かに受け入れてくれている姿勢に、鼻の奥がつうんとなった。 この告白が終わったら1人で泣こう。 榊さんに慰めてもらうのは、色んな意味で怖くてできない。 「洋ちゃんが、ずっと前……諒くんと付き合っている頃から好きだったよ。諒くんと別れてから、最初はぼろぼろの洋ちゃんを元気にしてあげたかった。だけど、会うたびに好きになっていってね、だから……」 「うん」 「諒くんを忘れられないのは知ってる。見ていて痛々しいほどに伝わってくる。だけどね、洋ちゃんの傍にいたい。僕と恋愛してくれないかな。僕を洋ちゃんの恋人にしてほしい」 緊張して、洋ちゃんの目もロクに見えていない。 文法も言い回しもめちゃくちゃだ。 本当は諒くんの代わりでもいいから、と言おうかと思ったが、それは本心ではないからやめた。 代わりなんて耐えられない。 しばらく沈黙した時間が続く。 どう答えたらいいか悩んでるのかな。 洋ちゃんのことだから、僕を傷付けないような言い方を考えてそうで、いじらしくて涙が出そうだ。 好きな人が自分のことを考えてくれている。それだけでも幸せに思った。 「返事は、すぐじゃなくていいから、ゆっくり考えて。ゆっくりでいいよ。僕のことは気にしないで。洋ちゃんがどんな答えでも、今まで通り土曜日の治療は行くから、だから…………」 すぐ断られると心臓に悪いから、心の準備期間が必要だった。色々気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする、 さて、言いたいことも言ったし、ヒデさんと榊さんを呼んでこよう。 いつまでも外で待っていると風邪ひいちゃうもんね。 身体が冷えるのは一番良くないことだ。 場所を借りたので、ヒデさんにはきちんとお礼しないといけない。近々商売道具を持って遊びに行くか。 僕が席を立とうとすると、洋ちゃんに袖を引っ張られた。不必要に身体がピクンと跳ねた。 「えっ、な、なに…………？」 「渉くん。今すぐ返事してもいいかな。もうちょっと座ってて」 僕は非常に困っていた。 今すぐって、もう心が決まってたんじゃないかと、悪い予感が胸を走った。 だが、洋ちゃんに逆らえない僕は素直に従い黙ってその場に座った。