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第62話 友人と恋人の境目10

(渉語り) 沈黙により、心臓の鼓動がさっきより煩く聞こえる。やばい、これ以上動悸が激しくなったら僕はたぶん死んでしまう。落ち着くんだ、俺……じゃなくて僕。 「…………渉くんの気持ち、嬉しかったよ」 僕は洋ちゃんを直視できずに、彼のカーディガンの裾ばかりを見ていた。 「教えて欲しいことがあるんだ。渉くんは、こんな僕のどこに惹かれたの?」 返事じゃなく逆に質問をされた。 拍子抜けして顔を上げた僕に、洋ちゃんはにっこり笑うので、両手を胸に当てて考えながら真摯に答える。 いっぱいあるから、いくらでも言える。 「洋ちゃんの……目、鼻、唇、あとね、柔らかい髪の毛、首からお尻のライン、腰のくびれ、膝の裏、くるぶし、少し外反母趾なところ、1人で眠れないところ、優しくて可愛くて料理が下手だけど食べ方がきれいで、頑張り屋さんで、あとね……泣き虫なところ。ホントによく泣くから、心配なんだ」 数え挙げたらキリがなかった。 洋ちゃんの好きなところを列挙していたら、途中から自分が泣いていて、涙が止まらなくなっていた。 僕は洋ちゃんが好きだ。 すごくすごく好きだと、心が身体に伝えてきた。 素晴らしい恋ができたことに、もう少し若かったら感謝して終われたけど、30近いから惜しくてしょうがない。もっと若い頃にアクションを起こしとけばよかったと心底悔やまれた。 ふと隣を見たら、洋ちゃんも目に涙を溜めている。 「あ……洋ちゃん、よく分かんないけどごめん。だから、泣かないで」 「ち、違う。こんな僕でも好きだと言ってくれる渉くんがいてくれることに、胸がいっぱいで……ありがとう」 お互い鼻水をずるずるさせながら、ひとしきり泣いた。 「渉くん……僕は渉くんの言う通り、諒が僕の中にいることは否定出来ない。だけど、渉くんの気持ちを聞いていたら、諒への消えゆく気持ちなんかより、大切なものがあることに気付いたよ。 渉くん、僕の傍にいてくれないかな。 僕と恋愛してください」 洋ちゃんが僕の手をきゅっと握った。 頭が追いついていかないんだけど……今何て言われたのかな。 「恋人になろう」 愛しい人が目の前で泣き笑いをしていた。

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