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第64話 真夜中の片思い1

(なごみ語り) いじらしい渉君を見ていたら、愛しさが溢れてきて、このまま傍に居たいと思った。 僕も渉君が好きだ。もっと色んな表情を見せて欲しい。 その日は明け方に僕の家へ帰り、手を繋いで泥のように眠った。2人ともすごく疲れていたので、軽いキスだけしてベッドに入る。 まだ慣れなくて、渉君に触れるたびに照れる自分がむず痒かった。 久々に頭の中が恋愛モードになった。 恋愛の始まりは、足りないくらい相手色でいっぱいになり、ふわふわと浮いているような気持ちに包まれる。この感覚がたまらなく幸せだ。 渉君がうちに来るなら、ベッドもセミダブルに変えようと思っている。 そのうちセックスも、お泊まりもするだろう。 考えがいやらしい方面へ逸れてきたけど、渉君の裸を直視できるのか恥ずかしくなってきた。 だってセックスは裸じゃないとできないしな…… 「なごみさんっ、聞いてます?」 大野君の声で我に返る。 今はプロジェクト会議の最中だったことを思い出した。 「おい、和水、しっかりしろよ。今日はなんか上の空だな。真面目にやれ」 寺田にイラついた口調で注意され、申し訳なく肩を竦めた。彼氏ができたんで浮かれてます、とは言えず、すみませんと謝る。 仕事は相変わらず激務の毎日だ。 このプロジェクト会議がやたらに長い。 時間が勿体無いなと思いながら会議に出るが、営業側の調整ばかりで僕にはわからない内容が多い。だけど、資材や資産管理上、全体を把握していないと後で納期が間に合わなくなったら困るので、掻い摘んでメモは取る。 今日は気を許すと渉君を思い浮かべてしまい、気合いを入れて思考を無理やり会議に持っていかないといけなかった。 「なごみさん、何かありましたか? 本当に今日はおかしいですよ。いつもと違うから心配で……悩みとかあれば俺が聞きます」 会議が終わった直後に大野君が僕に話しかけてきた。 彼も忙しい身なのに、僕なんかの心配をさせて申し訳ない。ただ浮かれてるだけなのに。 「大丈夫。ごめん。最近、忙しすぎて弛んでたみたい。気を引き締めないといけないね」 「本当に俺を頼ってくださいよ。毎日遅くまで残業してるでしょう。なごみさんが倒れたら俺は泣きますよ」 とんとん、と書類を揃えて僕は立ち上がった。 「うん。ありがとう。平気だから、大野君こそ無理しないで。お互い頑張ろう」 僕が差し障りない社交辞令的な返事をしたことが気にくわない様子で、大野君はさらに一歩近づき、僕に何か話そうとしていた。 「あの……なごみさん…」 「大野さん、ここにいた。大至急でA商事からお電話です」 「あ、はい、急ぎ………はい……」 事務の女の子が会議室に慌てた様子でやってきた。彼が口にしかけた話は、急ぎの用件で掻き消された。

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