65 / 270

第65話 真夜中の片思い2

(なごみ語り) 今夜も例に漏れず、定時には終わらない。 渉君にメールを送ってから、気合いを入れてデスクに座りなおした。 時刻は18時を過ぎている。 必ずと言っていいほど横槍が入るので、定時を過ぎないと自分の仕事に集中ができなかった。 山積みになった書類に目を通しながら、システム上の申請と照らし合わせる。必要であれば申請者に電話で確認し、メーカーにも問い合わせた。メーカーさんも遅くまで残っている方が結構いて、みんな残業続きなんだと互いに労いを述べた。 うちの社内に限ったことかもしれないが、営業力が高い人ほど、入力内容に間違いが多い気がする。 指摘すると個人的なルールみたいなものを延々と説明されるし、個性が強すぎて辟易する。 大野君も将来はそのうちの1人になるのかなと、ギラギラした目付きを想像してみたら気持ちが悪くなった。 大野君にはそこの領域へは行ってほしくない。 果てしない作業を繰り返す。 気付いたら22時になっていて、携帯を見ると渉君からメッセージが届いていた。渉君からはコンビニでもいいから何か晩御飯を食べるようにと可愛いスタンプと共に記されていた。 それを幸せを感じながら見て、息抜きに近くのコンビニへ行くことにする。週末まで渉君に会えないから、それまで仕事を頑張ろう。そして美味しいご飯を食べさせて貰おう。目標ができると俄然頑張ることができるのだ。 エレベーターへ乗ろうとしたら、ゴミ箱を漁りながら、何かを必死に探している怪しい影を見つけた。 明るめの茶色に、がっちりした広い背中は、大野君であることを僕に告げていた。 階下までやってくるとは……嫌な予感がした。 面倒なことに巻き込まれそうな気がする。 「……なごみさん」 僕を発見した大野君が顔を上げた。 その様が捨てられた犬に似ていて、放っておけないと思ってしまう。べそをかいているようにも見える。 また彼を助けたくなってしまう。 「どうしたの?何を探してる?」 無意識に一歩踏み出して聞いていた。 晩御飯を食べ損ねて、渉君に怒られるかな。 大野君が泣きそうになりながら口を開いた。 「契約書を失くしました。やばいです。俺、クビになるかも」 「それは……ヤバいね……今までで1番の非常事態だ。どうすんの?」 「………………分かってます………………」 あらら、契約書を失くしちゃったか…… それは相当重大な大罪で、大野君らしくない凡ミスに驚いた。 僕は、詳しく話を聞くためにエレベーターホールにある椅子へ座るように彼を促す。 長い夜が始まろうとしていた。

ともだちにシェアしよう!