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第75話 大野のズル休み4

(大野語り) 手渡された問診票に記入する。 気まずくて、空気が重い。 俺が意識しすぎているのか、それとも向こうが敢えて無視してるのか分からないが、痛いくらいの沈黙が続いている。 「昨日、洋ちゃんを振り回したのは君だよね。大切な物を失くしたんでしょ」 渉さんは、俺の書いた問診票をチェックしながら一度もこちらを見ずに話しかけてきた。 目線は手元で、口だけ俺に向けて言葉を発している。 ボールペンのノック音がカチカチと無機質に響いていた。 「はあ……まぁ、そうです」 「洋ちゃんは夜中に家に帰って、ほんの少し横になっただけで出社したのに、大野さんはお気楽にお休みですか。見た感じ病気ではなさそうですよね。ゆっくり休めましたか」 嫌味たっぷりに言われた。 この人はなごみさんの何なんだろう。 昨日のことを何故知っているのだろうか。 「大方、何かショックなことがあって行く気が失せたんでしょう。それでは、仰向けに横になってください」 その通りだから、反論もできない。 俺に対して底知れぬ悪意を感じるのは何故だろう。 渉さんが横になった俺の両手首を持ち、脈を確認した。 「そんなことで休むなんて、君らしくないと思いますよ。あなたは仕事ができるって洋ちゃんから聞いていますから。若いのに。体触りますね。ん………腰が悪いですか」 「えっ、あっ、はい。なんで?」 俺の体をさすったり触れたりして、渉さんが魔法のように次々と癖や悪い所を言い当てた。 腰は庇って歩いているから、片方だけ足と腰が張っているとか、足の長さが左右対称じゃないとか、背中が痛いのは胃が疲れてるからとか、兄貴が心酔するのも分かる気がした。 悪いところの緊張を取るために鍼を打つ。 細い鍼だから殆ど痛みもなく、特に肩こりはてきめんに効いた。 「………大野さん、相当体が疲れてますね。頑張りすぎるところは、洋ちゃんそっくりだ。さっきは意地悪なことを言ってすみません。洋ちゃんが絡むとついムキになってしまって、自分がコントロールできないんです。僕もあなたと同じで、洋ちゃんが好きだから。ふふ、ライバルですね」 渉さんがにっこりと笑いながら、初めて目を合わせてくれた。 この人となごみさんを取り合うとか、考えられない。面と向かって、なごみさんへの気持ちを伝えられた俺は何も反論できなかった。 余裕さに完敗だと思った。

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