79 / 270

第79話 渉の報告2

(渉語り) 昼間、鍼灸院に大野が来た。洋ちゃんが大野のために夜中まで契約書を探してあげたのに、ずる休みしたらしい。沢山ある有給を使うことは、労働者の権利だから別にいい。僕が許せなかったことは、助けた洋ちゃんがろくに寝ないで出社して、当事者の大野が怠けて休んだことだ。 洋ちゃんは僕の恋人で、大野なんかが振り回す権利はないんだよ。洋ちゃんが好きなら、どうしてもっと大切にしてあげないのだろう。 好きな人に何時間も契約書を探させて、寒空の下、外でベンチを覗かせるのかな。1人よがりの恋愛しかしてないから、相手目線に立つ発想が無いんだ。 常に相手から何かをしてもらう受け身のタイプだったんだろう。自分から愛を与えないと他人からは何も貰えないことを彼は知らないだろうな。 だから大野には嫌味なことをワザと言った。 あいつなんかライバルでもないし、僕と同じ土俵に立つ資格もない。認めない。 ちなみに……大野の体は洋ちゃん並にボロボロだったから、それはちゃんと治療した。仕事に私情を挟まないよう努力して、ギリギリ持ち堪えた。 「全然寝ていない洋ちゃんが心配だったから。後でマッサージしてあげるよ。今日は泊まっていってもいい?」 今日来た理由を答えた後、思い切って聞いてみた。恋人になったから、お泊まりがしたい。そのつもりで荷物を一度家に取りに帰っていた。 「うん。いいよ。僕はすぐ寝てしまうけど、それでもいいなら」 洋ちゃんは眠そうに目を擦る。 こういうとこが堪らなく可愛くて、胸がキュンキュンと高鳴った。 「眠そうだ。一緒に寝ようか。今日は疲れたね」 「うん。渉くんと眠りたい」 手を伸ばし洋ちゃんの頭を撫でると、彼は気持ち良さそうに目を細めて頷いた。 洋ちゃんは僕の恋人だ。 絶対に誰にもあげない。

ともだちにシェアしよう!