80 / 270

第80話 渉の訪問3

(なごみ語り) 食後、渉君にマッサージをしてもらった。ベッドで横になって腰を揉んでもらう。渉君は何でも上手だ。魔法の手によって疲れが解されて、幸せに包まれる。 「あのね、さっきの和菓子は大野から貰ったんだ。」 渉くんが持ってきた和菓子は、色とりどりの練り切りに甘すぎない餡が上品で美味だった。 熱い緑茶で頂いたらもっと味が引き立つと思うが、生憎うちにはコーヒーしか無かった。 「えっ、大野君と会ったの?」 驚いて起き上がろうとしたら、こらっと怒られる。そのままうつ伏せで会話を継続した。大野君の実家は和菓子屋さんで、彼のお兄さんが渉君の患者らしい。お兄さんの紹介で来院したらしいけど、事情を知っていた渉君はずる休みだと怒っていた。 「信じられないよね。洋ちゃんにあんなことまでさせておいて。酷い奴だ」 「うーん。でもね、会社の後輩だし放っておけないんだ。つい助けちゃう。大野君だって疲れてたからね、悪くないよ」 人から構われたくなる何かを彼は持っている。 犬みたいな、何だろうか……そういう無邪気さがあり、それが大野君の魅力だと僕は思う。 彼は万人から愛されるタイプではないかな。 事実、休まれても負の感情を抱くどころか、心配をしてしまった。 「だから、洋ちゃんに酷いことした大野が許せなくて、そしたら無性に会いたくなって来ちゃった。もう眠いよね。寝てていいよ。僕はお風呂に入ってくる」 うとうとしていると、渉君の手が離れた。 僕は寂しくなって、立ち上がった彼の手を引く。 「渉くん……すぐ寝るから、少しだけ側にいて」 渉君が小さくため息をついてベッド脇に腰掛け、僕の手を優しく握り返してくれた。 「洋ちゃん……あのね、僕たち恋人になったでしょ。それなりに僕だって我慢してるの。今日は疲れてるから早く寝なきゃ。ほら」 ちゅ……と、おでこにキスをくれたので、僕は素直に頷いた。 「うん……おやすみ」 「おやすみ」 そんなの、僕も同じだよ。 僕の中で渉君への気持ちが徐々に大きくなっていっている。彼を想うとほんわか優しい気持ちになる。 赤い顔を隠しながら渉君の温もりを感じていると、深い眠りに落ちていた。

ともだちにシェアしよう!