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第83話 コンビニ店員
(コンビニ店員中村誠語り)
また店長が遅刻した。
午後から授業があるので、仮眠を取るため朝6時に上がりたいと伝えたのに来ない。
店長なのに寝坊ばかりで、 夜中に何かいかがわしい事をやってるんじゃないかと疑いたくなる。
時刻は7時を過ぎ、店の外では出勤途中の社会人が歩く姿がちらほら見受けられた。
「中村君、混む前にゴミをお願い」
「うーす」
もうじき学生やらサラリーマンやらで混みだすので、先輩に言われた通り外のゴミを纏め始める。
今朝はいつもより冷えた。
ユニフォームだけでは寒いが、上着を着るのも面倒なので我慢して作業する。
昨日、なごみさんにメッセージを送りたくて携帯と睨めっこするも、散々考えて出来なかった。くだらない内容ならいくらでも送れる。 中村君はちょっと普通の大学生とはちがうねと思われたくて、何かいい話題はないかと模索するも思い浮かばなかった。
やっぱり手始めに子猫とか子犬の話がいいのかな。
なごみさんは女子ではないから動物では興味を引けないか……じゃあ美味しいものとか。
「中村君、おはよ。今朝は冷えるね」
突然、背後から声をかけられた。
振り向くと、タイムリーになごみさんがいる。うわっ、朝から眩しい。俺もにこやかに挨拶をする。出来るだけ爽やかに笑顔を作った。
「お、おはようございます。朝に来るなんて珍しいですね」
なごみさんの隣には、先日一緒にいた『友達』がいた。スーツ姿のなごみさんとは対照的にカジュアルな私服で、赤いスツールが目立っている。どうやらそれぞれ出勤のようだ。
「そんな薄着だと風邪ひくよ」
「ありがとうございます。寒いから店内へどうぞ。あったかいですよ」
俺はお似合いの2人を見ていられず、中へ入るように促した。その時、友達がなごみさんに何か小さく耳打ちして、なごみさんの顔が一瞬で赤くなった。
「もう、朝から何言ってんの。渉君……」
「えへへへ、冗談。洋ちゃん可愛い。早く入ろうよ」
友達に手を引かれて、なごみさんは店へ入っていった。
なにこのやり取りは……
見ている俺がものすごく恥ずかしくなった。
ほらやっぱり2人は付き合ってるんだ。
ぽつんと残された俺は、ゴミと共に項垂れる。
メッセージを送るとかで悩んでいた自分の小ささに泣きたくなった。
なんとなく2人がいる店内には入りづらくて、店の前を掃除することにする。かじかむ手と、冷たいほうきが自分の心を表しているようだった。
なごみさんなんか眼中に入らないくらい夢中になれる人が現れないかなと祈りながら、朝は爽やかに過ぎていった。
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