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第84話 東と大野1
(大野語り)
ずる休みの次の日、寺田さんに会議室へ呼び出されてめちゃくちゃ怒られた。
契約書を持ったまま休んだのがいけなかったようだ。なんで俺に相談しなかったんだ、と怒りを含んだ口調で説教された。
更に、なごみさんに手伝ってもらったのも気に食わないようで、俺が誰と探そうが関係無いじゃないかと思いながら、ひたすら謝った。
理不尽でも謝れば大抵のことはなんとかなると、社会人になってから学んだ。これで寺田さんの気も済んだと思う。
それから、ことの顚末を本部長に説明するために課長と役員室のある7階へ連れて行かれる。
俺たち平社員は滅多に立ち入ることのできない役員室ゾーンは、重役の個室が威圧的に並んでいる。
手前に秘書室があり、文字通り秘書達が机を並べている。法人営業部の女の子達とは明らかに違い、控えめな色気が漂う、したたかな女子の集まりだ。
この部屋の女子達は、階下の人間には全く興味がないらしい。みんなからは皮肉気味に『天上人』と言われている。
入った途端、天上人から視線を浴びるが、平静を装って通り過ぎた。
実は初めて見る天上人に少し興味があった。
彼女達にはお金と学歴が無いと相手にしてもらえないらしいのだ。
その女子達から少し離れて、1人の男性が座っていた。天上人に男性が混ざっていたとは知らず、思わず課長に聞いてしまう。
「課長、あの人は誰ですか?」
「ああ、東(ひがし)だよ。俺と同期で、社長秘書をやってる。秘書室の白一点だ。ちなみに室長も男だが余り目立たない。聞いたことないかな、冷徹な秘書室のハイスペック男。あいつは相当シビアだぞ」
見た目からして冷たそうだった。
その人は、姿勢が良く、背筋がしゃんと伸びており、仕事が出来そうな雰囲気しかしなかった。短めに揃えられた髪と薄いブルーのワイシャツが清潔感を出している。
なごみさんがふんわり癒し系なら、東さんはクールな冷徹男だ。触っただけで凍えるくらい冷たそうである。
いい加減なごみさんと誰かを比べる癖を止めなければいけないんだが、こればっかりは止められない。
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