85 / 270

第85話 東と大野2

(大野語り) 本部長になんとか説明は終わり、課長と深々頭を下げて役員室を出る。身内にも謝らないといけないとは、サラリーマンは悲しい職業だと思う。 課長から解放された後、俺はお礼が言いたくてなごみさんの部署へ向かった。 休んだ俺を心配してメッセージを沢山くれたから、一言元気なことを伝えたい。調達部の入り口から覗くと、愛しのなごみさんは席にいなかった。少し席を外しているだけらしいので、なごみさんの椅子に座って待つ。 なごみさんのデスクは俺と違い、無駄な物がなかった。 綺麗な字で書かれた付箋がPCに貼られていた。分厚いファイルの側にある黄色のボールペンを指先で転がしてみる。オレンジや黄色の暖色は、なごみさんによく似合う。あの柔らかい雰囲気に癒されるんだよなあ。やっぱり好きだ。 「あ、大野君だ。元気になったかな。渉君から聞いたけど、実家が和菓子屋さんなんだって」 なごみさんが書類を抱え笑顔で席に戻ってきた。 俺は空いていた隣の席に移動する。俺が休んで〝待鳥先生〟に会ったことをもう渉さんから聞いたんだ。 2人は間違いなくデキてるって大地に言われたことがフラッシュバックする。真実をなごみさんに確認したところで、俺に気持ちが向く訳でもない。 だから何も変わらないので聞かない。 俺は自分なりのやり方で、なごみさんに振り向いてもらうんだ。昨日の沈んだ気持ちとは打って変わって今日は晴れ晴れとしていた。 「昨日は契約書を探してもらってありがとうございます。本部長にも謝ってきました。そうそう、天上人を初めて見ましたよ」 俺は初めて見た天上人の感想を話した。 「そっか。大野君は初めて秘書室に行ったんだ。あの人達は特殊な集団だよね。その中に1人、男の人がいなかった?」 それは東さんのことだとすぐ分かる。 「東さんですよね。居ましたよ」 「社長の秘書だけでもかなりの仕事量らしいのに、他の役員も掛け持ちしてるらしくて、それでもまだ余力があるとか。羨ましいよね。噂によると秘書室の女子はみんな東さん狙いだけど、全く相手にされないんだって」 天上人全員があの冷徹男を狙っていることに驚いた。 そして、滅多に噂話をしないなごみさんが東さんを知っていることにも驚いた。彼は有名人らしい。

ともだちにシェアしよう!