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第88話 東と大野5
(大野語り)
気付いたら朝だった。
頭が割れるように痛く、酒の飲み過ぎだと身体が訴えている。スーツのまま自宅の布団に寝ており、昨日の記憶が曖昧だ。
ええと、東さんに飲みに誘われて、楽しかったことは覚えてる。
笑って、話して、そして、泣いたことも思い出した。酒の席で泣くとは、寺田さんじゃあるまいし格好悪くてウザイだけなのに、やってしまった。
醜態を晒した。頭を抱えるも、痛くて姿勢を持続するのは無理だった。東さん、鬱陶しかっただろうな。
とにかく水分が足りない。俺は覚束無い足取りで台所へ向かう。
「兄貴、昨日さ……」
「おはよう。お前、ベロベロに酔っ払って会社の人がタクシーで送ってくれたんだぞ。それから部屋に運ぶのがどれだけ大変だったか……俺に感謝しろよ。うわっ、酒くせえから寄るな」
朝早く仕込みが一段落して朝ごはんを食べている兄貴に言われた。俺は冷えた水を隣に座って飲む。味噌汁や卵焼きは見てるだけで吐きそうだ。
「会社の人にもお礼言っとけよ。なんなら和菓子持ってくか?上品なやつを包んでやる。今日は待鳥先生へ持ってくために、桜餅を沢山作ったんだ。待鳥先生、喜んでくれるかな。なあ、味見してくんない?」
「どっちもいらね。二日酔いで無理」
記憶が繋がり始めて、だんだん昨日のことが鮮明に頭へ蘇る。思い出すたびに顔が赤くなり、恥ずかしさでどこかの穴に埋まりたくなった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると携帯が鳴っていた。着信主は東さんだ。どうやら昨晩に番号を交換したらしい。俺は恐る恐る携帯を手に取った。
「もしもし……」
「大野君、おはよう。ちゃんと起きれたみたいだね。昨日は久々に楽しい時間を過ごしたよ。ええと、なごみさんだっけ?大野君が好きな人。大野君はなごみさんが大好きなんだね。泣きながら説明してくれたから、よく伝わってきたよ。非力ながら俺も協力するから」
東さんに、なごみさんのことを泣きながら話したのは記憶にある。今更否定派できない。彼が信用できる人格に値するのかも、判断材料が足りなかった。
「協力って……」
「そう。東さんはモテるから、なごみさんを落とすためのアドバイスをくれないかって、しつこかったの覚えてない?忘れてるならいいんだ」
「いやいやいや、お願いしますって、本当ですか。すみませんでした。うざかったですよね」
「まあ、びっくりしたけど……いいんじゃないかな。大野君が若くて羨ましいよ」
なごみさんを落とすなんて俺にできるのか不明だが、東さんに相談に乗ってもらえれば今より状況が良くなる気がした。
東さんは冷徹男とか呼ばれてるけど、案外気さくでいい人なんだな、と思った。
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