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第91話 揺れる乙女心2
(なごみ語り)
「待ってください、なごみさんっ……」
エレベーターを待っていたら、大野君が追いかけてきた。
「あの……今週末は彼女と会ったりしますか。相変わらず……忙しいですか……」
週末は別に用はない。渉君も仕事だし、ベッドを見にいく予定だけだ。渉君もしばらく来ないため、なおさら急いで買いに行く必要もない。
「何の用もないけど」
「じゃあ、あの……ドライブ行きません?美味しいもの食べに行きましょうよ」
大野君にどこかへ行こうと誘われるのは初めてだった。実は仕事抜きで大野君と過ごしたら、普通に友達のように楽しめるのではないかと思っていた。彼と過ごす時間は心地がよさそうな予感がする。
それに僕のことを嫌ってほしくなかった。
今まで通り必要として欲しい……僕の欲張りで汚い部分が顔を出す。
「………うん。いいよ」
思わず了承の返事をしていた。
他人の好意を自分の存在価値を確認するために利用してしまう。僕は最低だ。
「本当ですか。やった。絶対ですよ。家まで迎えに行きますから。休日だけど早起きしてくださいね」
僕の心内とは裏腹に、大野君は素直に喜び顔をくしゃっとさせて笑う。
結局、週末に大野君と遠出をする約束をして別れた。わくわくして、テンションが高くなる自分も確かに存在するのだった。
自分のデスクに戻ると携帯に渉君からメッセージが入っていた。彼はとてもマメで、仕事が忙しくても渉君は毎日連絡をくれる。
『今週末、会いに行けるよ。ベッドを一緒に見に行こうね』
飛び跳ねているネコのスタンプも一緒だった。
渉君……ごめん。
先に約束したのは大野君だ。
だけど、渉君には大野君と出掛けるとは言えなかった。知ったら絶対にいい顔をしないだろうし、渉君を失望させたくなかった。大野君も悲しませたくなかった。結局両方にもいい顔がしたいだけの、八方美人な僕だ。
『ごめんなさい。その日は実家に帰るんだ』
大学生から帰ったことのない実家を口実に使った。
あの時、どうしてバレるような嘘を使ったのか後から考えても全く思い出せなかった。
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