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第94話 揺れる乙女心5

(なごみ語り) 大野君のお父さんがギックリ腰になった。ヘルプを要請したくて、お兄さんから何度も連絡があったようだ。家族に緊急事態があったら助け合わなければならないと、家族について知識が浅い僕でも一般常識として知っている。 「大野君、ドライブは次回にして家に帰ったほうがよくない?」 一旦電話を切った大野君は考え込んでいた。 ものすごく悩んでいるように見える。 「………嫌です。だって折角なごみさんとここまで来たし、次回があるかも分からないじゃないですか。一緒に海鮮丼だけでも食べたい」 まるで駄々っ子のように口を尖らせて拒否をする。 そんなに僕と海鮮丼が食べたかったんだと、いじけた彼が気の毒になった。 「大野君、今日は取り敢えず帰って、お兄さんの手伝いをしよう。僕も一緒に手伝うよ。遠出はまた今度行こう。絶対行くって約束するからね?」 怪訝そうに大野君が僕を見た。 疑いの目が僕に注がれている。 まるで飼い犬に疑われた主人のような切ない気持ちになり、次は必ず約束を守ろうと胸に誓った。すっとぼけたり、あやふやにはしない。 「絶対ですか?絶対の絶対ですよ。約束破ったら、どうします?前だって飲みに行く約束を反故にされたし、信用できないです。今日も半信半疑だったので、きちんと誓ってください」 合コンの時にトイレでした約束を言っているようだ。もう忘れているかと思っていた。今日も僕がドタキャンするかもしれないからと、出掛ける直前まで携帯を見つめていたらしい。 「分かった。絶対行くって約束する。もし約束を破ったら大野君の言うこと何でもきく。だから、今日は帰ろう」 「…………分かりました。じゃあ……なごみさんを信じます。家に帰ります……信じますからね」 やっと彼の溜飲が下がったようだった。 こうして僕たちは、大野君の実家『光月庵』へ向かうことにした。 大野君の家族に会えるのも楽しみだった。

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