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第105話 東の思惑2

(東語り) 「大野君は、どうして振られたんだろうね。こんなにいい子なのに勿体ない」 思わず口について本音が出た。ついでに彼の柔らかい短髪に触れたくなるが、我慢する。 「知りませんよ。俺が知りたいです。なごみさんに聞いてください」 大野君は2杯目の生ビールを飲み干した。 実は、お相手の『なごみさん』は少し前から知っていた。彼の部関係の経営会議資料を役員室へ持って来ていたのが彼だった。 確かに普通の野郎には持つはずのない柔らかい物腰と、可愛らしい容姿はある。彼を見た途端、お仲間の予感がした。簡単なビジネストークの後、それは確信へと変わった。 だからこそ疑問なのである。何故『なごみさん』は大野君を病的なまでに拒むのか。 まぁ、人には好みがあるからしょうがない。 ちなみに俺は、なごみ君のようなタイプは好みではないし、興味もない。 ただ噂で聞く彼の仕事ぶりには注目していた。 いつか秘書室にスカウトしてみたいと密かに機会を狙っている。 「あの、東さんは恋人とかいないんですか?いつも俺ばっかりで、東さんの話も聞きたいです」 俺の話……大野君に聞かせるような笑えるものは無いに等しい。話してもいいが、ここで大野君に一線引かれると、後々の計画に支障が出る。 彼にはもっと俺を楽しませてもらわないと。 「今は居ないよ。秘書室にいると出会いが遠のくからね。あ、秘書室の女子達はそういうことにはならないから。なかなか難しい」 元々女に興味がない上に、女の園の中にいたせいで、確かに遠のいていた。すべてのヤル気を彼女らに吸い取られてる感じすらする。 「まじですか。あんなにモテるのに、勿体無い。彼女達、みんな東さん狙いじゃないですか」 「それでも興味が無いんだよ。そうだ、誰か紹介しようか?気に入った子いた?」 もしここで答えられても紹介する気は微塵も無いが、取り敢えず社交辞令を口にした。 「いや、いいです。当分そういうのは遠慮しておきますから。面倒くさいのは結構です」 そう言って、お代わりの焼酎を飲みながら即答する大野君をやっぱり可愛いと感じてしまうのだった。

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