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第107話 交差する想い1
(なごみ語り)
※そしてヒデさんのお店へ時間が戻ります。
渉君の容赦ないヒデさんへの注意にしばらく笑っていたかった。可愛くて仕方がないというヒデさんの年下彼氏についてもっと話を聞いている筈だったのに、中断されてしまった。
「………………大野君」
まさかの大野君登場に笑顔が固まる。
僕が1番会いたくない人が目の前にいる。
「……なごみさん、なんでここに居るんですか。待鳥先生も……」
「あ、大野君、その節はありがとう。体の調子はどうかな。また来てね。いつでも待ってるから、お兄さんにもよろしく」
ヒデさんの肩に鍼を打ちながら、渉君は軽く棘のある挨拶をして、ひらひらと手を振った。渉君はどことなく余裕だ。
仕事では意識しないよう常に気を張っていても、プライベートの場所に彼が現れてしまい、想像以上に戸惑っている自分がいた。
鼓動が早く波打ち、大野君は元より様子を意味ありげに伺う渉君ですら見れない。
「僕……ちょっとトイレに行ってくる」
駆け込むようにトイレに入り、ドアを閉めた。
ここのトイレは何故かメルヘンチックである。店内の雰囲気とは真逆のギャップに救われながら、深呼吸を繰り返した。
あちこちに小人が隠れているので、見ていて飽きない。個室に座って落ち着くまで待った。
よし、大丈夫みたい。
ざわつく心に酸素を送る。
これで、大野君と東さんが一緒にいる理由を聞いても動揺しない。一体どこで何をしたら休日を共にする程仲良くなるのだろうか。少し前に東さんを気にしていたのもその所為だったのかもしれない。
たとえ、付き合っていても祝福できるし、渉君も大切にできる。大丈夫だ。僕は大丈夫。パチンと頬を叩いた。絶対に揺れない。
席へ戻ると話に花が咲いていたので少し安心した。渉君と東さんが簡単な自己紹介をしている。
チラリと僕を見る大野君の視線が気になったが、僕は意識的に目を逸らした。
ヒデさんと東さんは古い友達らしく、久しぶりと軽く挨拶を交わしている。世間は狭いものだ。
「待鳥さんは、鍼灸の先生なんですか。しかも大野君兄弟がお世話になっている。で、なごみ君は時々秘書室に来てくれるよね。まさかこんな所で会えるとは思わなかった」
冷徹男は、本当はよく話す人だった。スーツではなく私服で見ると、いつもの冷たい雰囲気が崩れ優しさが漂っている風に見える。ネイビーのカジュアルジャケットから覗くストライプのシャツがお洒落だった。
「じゃあ、みんな知り合いなの?珍しい。なんか征士郎だけ浮いてないか。1人だけおっさんが混じってる」
「まぁ、それは否定しないが」
東さん達の飲み物を用意しながら、鍼を一旦終えたヒデさんが慣れた口調で話し出す。東さんの下の名前は『征士郎』らしい。
いきなりのおっさん発言にどう反応しようか考えてると、大野君は普通に笑っていた。
大野君………失礼じゃないのかな。
そんなことを気にしなくてもいいくらい2人の仲は親密なんだと思うと、心がつくんと軋んだ。
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