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第109話 交差する想い3

(なごみ語り) 東さんは大野君を追って外へ出て行き、ヒデさんは気を利かせて店の奥で何やら作業を始めた。店内は僕と渉君の2人きりになった。 「洋ちゃん。大野にいつ告白されたの。僕、知らなかったよ。2人で梅の公園に何しに行ったか教えて」 「………あ、と……2月の終わりの……」 「もしかして、実家に帰るとか言ってた日じゃない?」 詰問する渉君の声が低く、怖いものへと変わっていく。僕はただただ質問されたことに答えるだけだった。 「……………」 「図星か。これは嘘をついたってことでいいんだよね。洋ちゃんは嘘をついて、大野と会っていた。大野に下心があると知っていて、自ら会いに行ったんだ」 全部渉君が言った通りで、間違いは何もない。言葉にすると尚更下世話に聞こえて、自分が情けなくなった。実家の和菓子屋さんの手伝いという説明は渉君には必要なかった。 僕が嘘をついて大野君と会っていたことを彼は激しく怒っているのだ。 「洋ちゃんは気付いてないと思うけど、その日以来、様子がおかしいのは分かっていた。 もしかして実家で何かあったのかなって凄く心配したのに全然違ったみたいだね。 告白されて、大野が好きと気付いちゃったとか?今更大野に好きだと言っても都合が良すぎるから、僕を求めて紛らせていたんだ。 僕は大野の代わり?何とか言ったら?その通りとか、違うとか」 「………ごめん……なさい……」 反論の余地もなかった。 渉君には全てを見透かされていた。 「何に?僕に?大野に?それとも誰にでもいい顔をしていたい自分かな。人の好意を逆手に取って、洋ちゃんはずるい。最低だよ」 「ごめんなさい……そんなつもりは無かったんだ。渉君もちゃんと好きだった」 謝る度に渉君への想いがこぼれ落ちていく。 代わりにしていたつもりはなかった。 そんなの都合のいい言い訳にしか聞こえない。 渉君に抱かれていると大野君を忘れることができたのは事実だ。じわりと涙が滲んで視界が霞む。 僕は最低だ。沢山の人を傷つけてもなお、ヘラヘラ笑ってここにいる。消えて無くなってしまいたいが、そんなことも叶わない。 「洋ちゃん」 優しい渉君の声が胸に響く。 ハッと顔を上げると、にこりと彼は笑った。 初めて見る他人のような冷たい笑顔に、僕はこれから言われるであろう絶望を受け止める準備をした。自らが引き寄せた孤独がまた始まる。 「ごめん。もう、今までみたいに君を大切にできないと思う。嫉妬深いから絶対に許せないし、何をしても疑ってしまう。僕は距離を置くことが中途半端で嫌いなんだ。洋ちゃんは僕を見てくれていない。辛いんだ。僕を通して違う誰かを求めていると知ってしまった以上、もう耐えられない。」 「わたるくん………」 「………洋ちゃん、別れよう」 3ヶ月前、ここで始まった恋は、奇しくも同じ場所で終わった。

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