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第123話 再会7
(大野語り)
嬉しくて舞い上がったまま、なごみさんと駅の改札口で別れた。疲れて眠いのに、異様な程意識は醒めていた。俺の人生に未だかつて無いくらいの大事件が起こったのだ。
久しぶりに会ったなごみさんは、前と変わらず柔らかい雰囲気に包まれていた。彼の笑顔は、辺りを桃色の空気に包み、俺の鼓動を早めて、足先まで痺れさせるような威力を持っていた。
その瞬間に、もう一度恋をしていたと思う。
3年前の格好悪い思い出と、好きだった感情すべてが俺の中に流れ込み涙が出そうになる。関西では無理矢理に忘れようと仕事に没頭した。だが、そう長くも続かなかった。気晴らしに女の子と付き合ってみても、いざ身体の関係を迫られると、俺の下半身は反応しなかった。
それに何より、彼女達を恋愛対象として見れなかった。男としてどうなのか相当悩んだが、結局答えは出ていない。
なごみさんが、俺を好きだと言ってくれた。上気せた頭でふらふらと家に帰り、いつものように絡んでくる兄貴を無視し、襖を開けてベッドへダイブした。
顔がにやけるのが止まらない。
幸せ……なんだけどさ。
うーん……と何か忘れてる気がする。
俺って、自分の気持ちを伝えたっけ……
普通告白されたら返事をするものだよな。
やばい。返事をしていない。
舞い上がって、余韻に浸りすぎていた。
飛び起きて携帯を確認すると、12時を過ぎていたが、躊躇いもせず画面をタップした。
「……はい。もしもし大野君、何だった?」
3コールで愛しのなごみさんが出た。なごみさんの声を聞くと心が癒される。向こうも静かで、既に在宅のようだった。
「すみません。俺、大切なことを伝えていませんでした」
「えっ、また契約書無くしたとか?」
けらけらとなごみさんが笑う。
「違いますって。今日はありがとうございました。あの…………俺も、ずっとなごみさんが好きでした。よかったら俺と付き合ってもらえませんか。絶対にうまくいくと思うんです」
しいん、と辺りが静寂が流れた。まるで携帯と耳が同化したみたいに何も聞こえない。
「………僕、男だけど。それでもいいの?」
暫くして、なごみさんが言う。
「それはずっと前から考えてましたけど、俺には全く問題ないみたいです。『あなた』がいいんです。ダメですか?貴方を大切にしたい。一緒に居たいんです」
「………うん。こちらこそ、よろしくお願いします、と言いたい所だけど、大野君は彼女が居るって寺田から聞いてるよ。それは本当なの?彼女さんに失礼だよ」
それは、あまりに寺田さんが鬱陶しいから適当についた嘘で、事実無根だ。
今更ながらそんな嘘は軽くつくものではないと後悔した。俺の馬鹿野郎。
「それは寺田さんについた嘘です。信じてくださいよ。彼女なんていません。なごみさん?聞いてます?いませんよ。エアーですからね」
涙目になりながら、なごみさんの回答を待つ。俺の真剣さが伝わっているか心配になってきた。誠実に話しているつもりが、いつもふざけた方向へ逸れていく。
「ふふふ、信じるよ。僕は大野君が好きだから。では、これから……よろしくね。わざわざ電話をくれて、ありがとう」
「…………やったぁーーー!! 」
思わず大きな声で叫んでいた。
好きだから……と言われることに慣れていないからか、照れてしまう。
顔が半端なく赤く、熱くなるのが分かった。
「大野君、うるさい。耳が痛いよ。近所迷惑だって」
「すみません」
そして、やっとやっとやっと、およそ4年越しの片想いが成就したのだった。
俺、生きていて良かった。
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