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第129話 2人のルール6
(なごみ語り)
僕の家は、料理に関する道具は殆どある。
恥ずかしい話、過去の恋人達が買い揃えてくれた。諒と渉君が使ったものを、今は大野君が使っていて、複雑な気分である。
「なごみさんは俺がやるところを見ていてください。所々手伝ってもらいますから。ええと……マッシャーまであるんですか。道具は立派ですね」
「まあね……」
上着を脱いで腕まくりした大野君の言う通りに、側で見守った。
がっしりとした腕を目の前に、一体何で鍛えたのだろうかとドキドキしてしまう。
少しして、電子レンジで茹でて皮を剥いたジャガイモをマッシャーと呼ばれるもので潰すように言われた。
「あの、この道具達は、なごみさんが買ったものではないんですよね。ジューサーも、フライパンですら使った形跡が無い」
「うん。知り合いがね、揃えてくれたんだ。僕はあまり使ったことがないよ。鍋で茹でたりとかしかやらないし」
もしゃもしゃとジャガイモを潰しながら答えた。確かこれは渉君が買ってきた道具だ。
「知り合い………か」
そう一言呟くと、大野君は作業に戻っていった。手際よく野菜を切る音が聞こえ始める。
間もなく大野君お手製のハンバーグと、ポテトサラダと野菜スープが食卓に並び、向かい合わせに座って美味しくいただいた。
「あの……聞いてもいいですか?」
食後、洗い物もやると言い張る大野君に、後でやるからと無理矢理食器を流しに入れて、お茶かビールか、はたまたワインか何を飲もうか悩んでいる時だった。
仕事をしてきたのに料理まで作ってもらい、せめて寛いでゆっくりして欲しかった。お酒は事前に買って冷蔵庫で冷やしてある。
「なあに?美味しそうな白ワインを見つけたんだ。飲まないかな?さっき買ったチーズもあるよ」
大野君の返事も聞かずに白ワインを出し、隣の部屋のテーブルに着いてオープナーで開けようとしていた時だった。
「料理道具は、誰が揃えたんですか。使わないのに、家にあるってことは前に使う人が来てたんですよね。待鳥先生以外にも居たんですか?なごみさんに料理を作ってくれた人は……」
ワインを抱える僕に、ずいずいと大野君が迫ってくる。
サッとワインを取り上げられ、答えるように無言で促された。
「え、あの……1人だけ……いたよ。わたる……待鳥先生の前に付き合ってた人」
僕が付き合ったのは、諒と渉君2人だけだ。
別段隠す必要もないと思い、戸惑いながら口を開いた。
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