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第130話 2人のルール7

(なごみ語り) 素直に答えた。諒と大学時代から3年間付き合って、フラれたこと。 吹っ切れていたので、昔を話すのは全く苦ではなかった。涙も出てこない。 自分のことなのに遥か遠くの出来事を話している気がして、もう諒は思い出の一部だと再認識した。 今は目の前の彼が1番愛しい存在だ。 「他に聞きたいことはない?これが全部だけど……えっ、ちょっとどうしたの……」 興味ありげに聞いていた大野君が伏し目がちになり、心配して覗き込むと、なんと目尻に涙が滲んでいた。 僕が泣かずに何故大野君が泣くんだよ。 大の男が向かい合わせに座って何やってんだか。大野君はぐいと涙を拭い顔を上げて僕と向き合った。 「………すみません。俺の知らないなごみさんがいることが……すごく悔しくて。この家も俺は他所者なんですよね。過去の人達があなたを大切に愛していたことが伝わってきて、なんだか負けそうです。すごく好きで大切なのに」 そんなことに嫉妬してたのか。 僕を通して会ったこともない人の存在を感じ、不安になるとは、いじらしい。 それに僕は今までフラれたことしかない。こっちのほうがよっぽど気掛かりで泣きたくなる。 「そんなことない。他所者とか言わないで。大野君が傍にいてくれるだけで充分幸せだよ。僕は君が好きで、3年間片想いしてたことを忘れないで欲しい。ほら、もう泣かない」 ちゅっと高い位置にある大野君のおでこにキスをした。 「なごみ……さん……」 「しー、黙ってて」 次は目元の涙に唇を這わせると、少し塩っぱい涙の味がした。頬、鼻、口と軽いキスをしてから、僕より幾分大きな肩を引き寄せて抱きしめた。がっしりとした肩は分厚く雄の匂いがする。 ずっと探し求めていた愛しい存在がここにいる。 僕の奥の方にある繋がりたい欲望が見え隠れし始めた。じわりじわりと火が付くように身体が熱くなっていく。 「大丈夫だよ。不安になったらこうして抱き合えば平気だから。あったかいね」 「はい。あったかいです………ええと、触ってもいいですか」 背中にある彼の手が、シャツの中に忍び込もうとしているのは、薄々気付いていた。 それに、恋人同士なんだからいちいち聞かずに好きにしていいと思うけどな。 「気が済むまでどうぞ」 僕が小さく呟くと、大野君の手が動き出し、シャツの中を弄りだす。 たまらなくなり顔を上げた僕に、大野君が噛み付くようなキスをしてきた。 さっきのとは違う大人の深い口づけだった。

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