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第135話 2人のルール12
(なごみ語り)
目覚めると大野君の腕の中にいて、まるで夢みたいだなと思った。
昨晩、僕達は初めて身体を重ねた。改めて冷静に考えると羞恥で顔から火が出そうになる。
僕から色々と誘ったりした。途中から声も我慢できずに出してしまい、幻滅されたかもしれない。男の喘ぎ声は気持ち悪いだろう。
だけど身体の相性は良かった。彼はまた僕を抱いてくれるだろうか。カーテンの隙間から入ってくる強い日差しは暑い夏が近いことを告げていた。
ふと時計に視線を移すと8時だったので、僕は慌てて隣で寝ている彼を揺さぶる。
「……大野君、起きて。8時だよ」
今日、大野君は仕事だ。支店では土日は出勤が多く、その代わり平日が休みである。
「………あっ…なごみさん、おはよう、ございます」
寝起きの声がやけに色っぽくて思わず視線を逸らした。くぐもったような鼻にかかる声は眠そうで、だけど表情はやけに幼い。2人ともTシャツにパンツという格好で朝の挨拶を交わした。
「会社に間に合わなくなるよ。早く起きないと」
半分身体を起こした体勢は、また腕の中へと戻された。僕より広い胸にあっという間に包まれる。
「いいんです。今日は午前半休にしてあります。こうやって離れ難くなるのは分かってましたから。恋人に起こされるって幸せですね。身体は平気ですか?なごみさん、昨日はすっげー可愛いかったです」
大野君の指先がいたずらに僕の髪を弄んでいる。
「可愛い……とか言わなくていいよ。身体は平気だから」
ぎゅうと抱きしめられ、彼の胸に顔を埋める。恥ずかしさと愛しさが胸を染めていく。
「いいえ、可愛いかったです。俺史上で1番です。ずっとあなたに片思いしてましたけど、好きって限度がないですね。際限なく好きが溢れてくる。好きです。これからもずっと一緒にいてください」
「ありがとう……僕も好きだよ」
何故だか涙が溢れてきて、止まらなくなった。大野君が動揺して指で拭ってくれる。
「久しぶりに、なごみさんの涙を見ました。やっぱり泣き顔がよく似合いますね」
「なにそれ、酷い……大野君のばか」
泣き笑いをしながらしたキスは涙の味がした。
幸せの、涙の味だ。
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