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第138話【番外編】10年越しの約束3
(東語り)
「東君、よかったらもう少し居候させてくれない?頼むよ」
次の日の朝、寝起きの白勢さんと洗面所で会った時に言われた。無造作な髪型が無駄に色っぽくてドキリとする。
「自分の家に帰らないんですか?うちは別に部屋が余っているからいいですけど、社長は心配してるかもですよ」
この人は社長の御曹司なのだ。1泊ではなく、うちに住んで面倒臭いことに巻き込まれるのは御免だった。
「ちょっと実家には帰ることができない理由があって、オヤジと顔をなるべく合わせたくないんだ。35歳にもなって心配はされないよ。それにしてもこの家、大切に管理してるな。東君は若いのに偉いな」
話題をすり替えたつもりらしいが、明らさますぎて内心笑った。触れられたくない理由があるらしい。だが俺が立ち入る権利もないし、居候を断る理由もなかった。
寧ろ、この生活が少しでも活気づけばと思ったくらいだ。
「どうぞ。気がすむまで居ても結構です」
どうせそんなに長い期間は居ないだろう。
それが白勢さんとの不思議な居候生活の始まりだった。
白勢さんは空気のような存在で、俺も気にせず自分のテリトリーを守ることができた。
それぞれが同じ屋根の下で生活をしているだけで、他に干渉をする事もなく楽だった。
反対に裏を返せば、彼が俺に興味を持つことが無いということで、その頃は全く気にしていなかった。
とにかくお酒が好きで夜中でも明け方でも必ず酔っ払って家へ帰ってくる。朝起きると居間で寝ているのはしょっちゅうで、それにより頻繁に風邪をひいていた。
二日酔いには濃いブラックコーヒーを好んで飲み、風呂では延々と鼻歌を歌い、歴史やお城が好きだった。喜怒哀楽がはっきりしていて、俺より10歳も年上なのに子供みたいな人だった。
客間は彼の部屋になり、私物で溢れかえるようになっていた。
まあ、そんな変わった人との同居生活があったとしても、俺の日常は流れている訳で、ゲイである俺にだって恋人はいた。
ゲイバーで出会った友人の紹介で、付き合って1年経つ交際相手がいた。それなりに本気だったと思う。
とある秋の日、休日デートの別れ際に好きな人が出来たからとあっさり振られたのである。最近メールも電話も少なくなり、不思議に思っていた矢先の別れだった。
突然のことにショックすぎて、帰りにニラを買ってこいという白勢さんのメールを無視するくらい周りが見えていなかった。
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