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第140話【番外編】10年越しの約束5

(東語り) 食後、白勢さんは自らのことを語り出した。 「俺さ、アメリカから結婚のために半分騙されて呼び戻されたんだよね。政略結婚で、親が決めた相手と一生添い遂げるというあり得ないやつ。妻がいる方が社会的地位が築き易いとオヤジは考えてる。実際そうなんだろうけど、嫌なものは嫌で、逃げてきた」 何という我儘に驚いた。そんな人生の起点に、俺の家へ逃げ込んできたとは呆れた。 社長はおそらく怒り心頭だろう。 俺が思うのもなんだが、白勢さんもいい歳で見た目はかっこ良く所作がスマートだ。相当遊んできただろうから、そろそろ腰を据えてもいいのではないか。お相手はきっといい所のお嬢さんで綺麗な人だろう。 本人の中身は自己中な少年なため、残念ではあるのは致し方ない。 「……彼女はいなかったんですか?その人を妻に迎え入れれば、社長は納得するかと思いますが」 「残念ながらそういう相手はいない。アメリカでは特にそういうことが難しかった。ここへ来てゆっくり考える時間が出来て悟ったんだが、俺は気ままな生活が合うと思うんだよ。いっそのこと征士郎とこのまま結婚したいくらい。それくらいこの暮らしが気に入ってるんだ。ずっとここに居たい」 へへへっと白勢さんは笑う。この冗談は、俺がノンケである前提で、しかも笑い流してもらいたくて言っているようだ。 残念ながら、失恋したばかりの俺にはそんな心の余裕など無かった。他人を気遣うなど出来ない。 「………白勢さんと結婚なんかお断りです。もう意地張ってないで戻ったらどうですか。綺麗でお金持ちのお嬢さんと幸せになってください」 半分泣きながら答えた。 この人の子供で能天気な所にはつくづく嫌気が刺してくる。 「……なんだよ。征士郎は冷たいな。おじさんのプロポーズを無下にすると後悔するよ。今日はデートだったんだろ?出かける時は楽しそうだったのに、帰ってきたら正反対のオーラを背負っている。しかも帰宅時間は早い。女にでもフラれたか?元気出せよ。俺がいるから心配すんなって」 ポンポンと優しく背中を叩かれて、イライラと悲しみが同時に押し寄せてきた。 「………元気なんか……出ない」 行き場のない想いを消し去りたいかのように、手元にあった白勢さんの焼酎ロックを仰いだ。 ものすごく濃くて喉が焼けるようだった。

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