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第141話【番外編】10年越しの約束6

(東語り) それから1時間後、俺は何故か白勢さんに身体の関係を迫られていた。ただの居候なのにおかしい。 酔いが回り、頭がくらくらしてきた。ボーッとして思考が上手く回らない。反対に白勢さんはほぼシラフだ。この人が酔って乱れているところを見たことがなかった。 男にフラれたと俺が口を滑らせた所から雲行きが怪しくなっている。 俺と結婚したいとか言われて無性に腹が立ったので、わざと不快にさせようと勢いで伝えてみたのだ。引くかと思いきや予想を裏切り逆効果だった。 後悔の大波が押し寄せる。 「奇遇だな。俺も同性の方が好きだ。征士郎を少しづつこっち側へ引き入れようと思ってたのに、手間が省けたよ」 「えっ……」 丸いちゃぶ台に沿って、すいいと白勢さんが寄ってきたかと思ったら、俺を背後からやんわりと抱きしめた。手のひらを上から優しく包まれる。 「1回俺としてみようか。失恋も忘れられるかもしれない。行為に没頭しようよ。絶対付き合ってた奴より俺の方がいいから」 「……そ、そんなの……やりません」 一体どっから来る自信なのか…… 流される自分が嫌だった。弱ってるから落とそうとしてる白勢さんが卑怯で許せなくて、だけど忘れて没頭したいのも事実だ。 「俺はたぶん上手いよ。征士郎を沢山気持ちよくさせてあげられる。一緒に蕩けないか」 今まで誰にも言われたことなど無い口説き文句に、半分固まり半分赤くなっていると、顎を背後から掬い上げられ唇を奪われた。 ねっとりと生暖かい舌が口内を蹂躙する。 まるで何かいやらしい生き物が口の中で蠢いているようだった。 「……ふぅっ……はぁ……」 「ほらやっぱり俺の方が上手い」 豊富ではないがそれなりに恋愛をしてきた俺を否定されたようだった。 この人の余裕に飲まれてしまう。 「征士郎、もっとキスしようか」 「………しないっ……や、だ……」 「こっち向いて」 「…………んっ…………」 言葉とは裏腹に深いキスが繰り返される。悔しいけど、白勢さんはキスが上手い。 しつこいしねちっこい……けど心地いい。 見た目通り経験はかなり豊富のようだ。 俺は半分諦めて、応えることにした。 気持ちよくしてくれるなら、男だし減るもんじゃない。別にいいだろう。

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