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第143話【番外編】10年越しの約束8

(東語り) 横で満足げに寝ている白勢さんを置いて、明け方に自室へ逃げ帰る。というか、昨晩は凄かった。 比べるのもどうかと思うが、元彼のセックスとは全く違った。前者は独りよがりと思えてしまうくらい、白勢さんは俺の反応を見ながら、少しづつ快楽へ誘った。 ああいうのを上手いと言うのだろう。 余裕がある大人な行為だと火照った身体で始終感じていた。 腰をさすりながら布団を敷いて横になる。 俺が本気になりそうだった。女じゃあるまいし、セックスで惚れるとか格好悪い。 向こうが本気かどうかは別として、このままズルズルと奇妙な関係が続くのは勘弁だった。俺は失恋して寂しいから、白勢さんを求めたのかもしれない。 哀しい気持ちは紛れるが、心の隙間は埋まらないままだった。 「征士郎……いるか?」 お昼過ぎに白勢さんが2階にある俺の自室を訪ねてきた。気が済むまで寝ていたかった俺は怠そうに返事をする。 「……………はい」 襖の間から白勢さんの顔が覗く。姿を見た途端、心臓が波打ったように鼓動が速くなった。昨晩のことが頭の中でリフレインされる。熱を隠すように背を向けて丸くなった。 「あのさ、少し話さないか…………昨日は悪かった。征士郎の気持ちも考えずに自分ばかりだった」 今は何も考えたくない。 白勢さんの顔すらまともに見れない自分に冷静な会話が出来るはずもない。 「すみません。体調が優れないのでまた後にして下さい」 「えっ……昨日は無理させてしまって、ごめん」 慌てた白勢さんが襖を開けて室内へ入って来ようとする。 「そんなんじゃないですから。気にしないでください。頼むから今日は放っておいて貰えますか」 「………………ああ、分かった。また話せるようになったら声をかけて欲しい」 泣きそうな声で懇願すると、襖は静かに閉まり静寂が戻る。静けさに何故か涙が出てきて、滲んだ雫が枕に染みを作った。 それから、白勢さんとは話し合うこともなく一週間が過ぎていった。俺が一方的に避けていると言った方が正解かもしれない。 無理矢理残業を入れ、仕事に没頭した。 すると、とある噂話が耳に入ってくるようになる。嫌でも先輩達の話が聞こえてきた。 間もなく白勢さんがアメリカの関連会社へ戻るというものだった。

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