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第149話 甘いと切ない2

(大野語り) そのまま一緒に入ってくれるかと思いきや、予想に反し拒否される。身体を洗い終わっていた俺は外に出された。 しょうがなく濡れた身体を拭いて部屋着を着る。これも、なごみさんが揃えてくれた俺専用のものだ。 流れでお風呂へ入ることになったので、せめてなごみさんの着替えぐらい出してあげようと、俺は髪を拭きながらクローゼットの前に立った。1人暮らしの割には大きめの収納だと思うそれは、キチンと整理整頓されている。 スーツや服が規則正しくに並び、手を伸ばすと、ふわりと柔軟剤の匂いがした。 こういう所はしっかりしている。 だけども、食には無関心だ。野菜とタンパク質をバランス良く摂らないと免疫力が下がって調子が悪くなる。仕事ぶりや見た目からは全く想像がつかない一面だ。自惚れじゃないけど、なごみさんは俺が側にいてあげないとダメだと思う。 チェストからTシャツと短パンを出した。ついでに下着の引き出しを開けて、ピンクのボクサーパンツも出す。濃いめの色は白い肌のなごみさんによく似合う。 これを履いた姿を想像しただけで勃ちそうになった。 いかん、いかんとニヤけた自分を戒めながら、クローゼットの扉を閉めようとした時だった。 ある物を発見する。 隅の方で立て掛けてあるパネルのようなものだ。見られたくない様にひっそりと隠してあるようにも思えた。 「なんだ……これ?」 引っ張り出すとかなり大きくて、両手に余るほどある。 何かの写真のようだ。 目を落とすと、あまりの絶景に言葉を無くした。 夜……?朝……?いつの写真かは判らないが、無数の星と太陽が混在している。 肉眼でも見たことがない光景を写真に収めていることに感嘆の声が漏れた。 こんなに凄い写真をなごみさんは何故飾らずに仕舞っているのだろうか。 後で聞いてみようと、パネルを元にあった位置に戻した。その際、裏側にメッセージが書いてあるのが目に止まり、読んで固まる。 『お誕生日おめでとう。愛しているよ。 R』 R………って何だろ。人の名前かな。 このパネルは、なごみさんが俺より前の恋人から誕生日に貰ったものらしい。大切にとってあるのか、捨てられないのか、定かでは無いが人目につかぬよう隠してある。 『愛している』という文字は妙にリアルを感じた。 愛……愛……重いけど、口にしたい言葉だ。 なんだかこの文章の余裕さに嫉妬さえ覚える。 なごみさんに怪しい素ぶりは何も無い。なのに、心がもやもやっと燻(くすぶ)り始めた。俺の知らない彼に遠い距離を感じる。 「はやとくーん、バスタオル出してくれるかな」 風呂から出たらしく、なごみさんが俺を呼ぶ声を耳にして、我に返った。慌ててクローゼットの扉を閉めて、タオルを持って行く。 結局パネルについては何も聞くことができなかった。勿論、Rについても同様だ。

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