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第150話 甘いと切ない3
(なごみ語り)
自分で言うのも何だけど、最近は仕事もプライベートも充実していると思う。
プライベートは恋人との時間を大切にしているため、隼人君を中心に動いている。部屋着を用意して、シーツを替えて、家の掃除をして、彼の好きなお酒とおつまみを買っておく。うちでリラックスしてもらうことを常に心掛けていた。
ご飯は隼人君が作ってくれる。
放っておくと駄目な食生活しかしないからと、甲斐甲斐しく世話を妬いてくれる彼が大好きだ。
彼が休みの日は平日が多いので、その日はなるべく早く帰るし、場合によっては有給も取得する。とにかく隼人君ありきなのだ。
彼が居るから僕が存在する意味が生まれる。
そんな幸せを噛みしめる毎日がとても気に入っていた。
ここ最近、白勢社長の生活スタイルが一変したようだ。直接聞くのも気が引けるので、機会があれば確認したいが、どうやら世話をしてくれる人が現れたようだ。どんな人か全くもって謎だ。
先ず、朝一のメールや電話が少なくなった。血色も良くなり、二日酔いの頻度が減った。鼻歌も耳にするようになったし、全体的に扱いやすくなって、我儘が減った。
どこの誰かは知らないが、とても感謝している。以前は機嫌を損ねると、とにかく宥めてモチベーションをヤル気レベルまで持って行くのが大変だったからだ。
めったに無いが、拗ねると手をつけられなくなる。
「なごみ君、今日は昼前に来客があるから、来たらここへ通してくれるかな。それまで仕事をしてるよ。午後は予定通り、B支店に行くので、車をロビーに付けておいて」
朝、スケジュールを確認している時に、社長が言った。応接室ではなく、社長室へ通して欲しいとは珍しいことだ。白勢社長は気心知れる相手じゃないと滅多に自室へ招かない。
「かしこまりました。その方のお名前を教えてもらえますか。受付に伝えておきます」
社長室には朝日が注ぎ込み、僕は眩しくて思わず目を細めた。今日も暑くなりそうだ。
「うんとね、カワイ君。この間のアメリカ出張の際に、ロスの空港でたまたま知り合ったんだ。実に面白い若者でね、今日はビジネスの話だから、ここでいいよ」
社長は、『ここ』とトントン机を叩いた。
僕は了解の旨を伝えて、頭を下げ社長室を後にする。
カワイさん、カワイさん……
忘れないうちに受付嬢へ連絡して、僕は仕事に没頭した。
それから11時を過ぎた頃、デスクの内線電話が鳴る。
「受付ですが、朝言って見えたカワイ様がいらっしゃいました。そのまま7階へご案内しますね」
「はい、お願いします。お待ちしていますとお伝えください」
電話を切り、エレベーターホールで待機する。社長のお客様はいつもお出迎えするのが僕の習慣だ。
僕は、まだかまだかとカワイさんが乗ってるであろうエレベーターを待っていた。
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