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第154話 甘いと切ない7

(大野語り) 撮影は淡々と進んだ。重そうな機材を運び込んで簡易スタジオを作成し、カシャカシャとシャッターが切られる。こんな世界もあるのだな、と初めて見る光景に感心して眺めていた。 細かい指示を出しながら、それに伴い助手がせわしなく動いている。気がつかなかったが、彼は若いのに助手が付いていた。なごみさんも小柄なほうだけど、助手は更に小さかった。20歳ぐらいなのか、少年にも青年にも見える不思議な雰囲気の男だった。 昼過ぎて休憩へ入る。撮影済みの家具を片付けている最中に、河合さんから声を掛けられた。 「すみません、大野さん。ここにあるものはすべて輸入品ですか?国産は無いのでしょうか」 最もな質問だと思った。だが、課長や本社の人が居るにも関わらず、何故俺なのか疑問になったが、聞かれたので素直に答える。 「ここの支店はオフィス向けではなく、個人の富裕層向けなんです。皆さん大体北欧やヨーロッパの家具を好まれます。カーテンや壁紙もすべてそこ仕様で揃えることも可能になってます」 あの人達はブルジョアなんです、と笑って言おうとしたけど止めた。崩れた話題を好む体には見えなかったからだ。 「へえ、そうなんですか……」 その後、細かい質問に答えていると、河合さんが手帳を出しメモを取り出した。 家具に対する話はだんだんと長くなり、辺りに人が少なくなってくる。 メモを取らなくても後で資料をお渡ししますから、と口に出して言おうとした時だった。 手帳から一枚のハガキサイズ位の紙が滑り落ちて来たのだ。それは俺の足元で動きを止めたので、自然の成り行きで拾った。 ごくごく滑らかな流れだった。 「河合さん、落としました………よ」 拾った際、何気なく紙に目を落とした俺の視線が止まる。こんな場所で同じものを見るとは思わなかったからだ。 なごみさん家のクローゼットに隠してあったパネルの写真と恐らく同じものが手元にある。美しい空の写真を河合さんが落として俺が拾った。 俺が知らないだけで、巷では有名な写真なのだろうか。 「これ、僕がまだ学生で駆け出しの頃、故郷の空を撮ったものなんです。当時付き合っていた恋人に強請られて、パネルにしたものをプレゼントしたんですよ。持っていくのが恥ずかしくて大変だった。車なんてないから電車とバスで抱えて行ったんです。物凄く喜んでくれたからよかったですけど。あれ、この写真……大野さんも見たことありますか?」 先日、なごみさん家で見たメッセージを思い出した。 『お誕生日おめでとう。愛してるよ。R』 Rは河合諒のイニシャルだ。 こいつは、なごみさんの昔の恋人だ。そして、俺達の関係を知っていてカマをかけている。何のために?どうして?俺はどう返答したらいいのだろうか。目的が分からない。 「あなたに聞きたいことがあります」 河合は少し間を置いてゆっくりと俺に言う。 「何ですか」 「なごみは元気でしょうか?あのパネル、まだ捨ててなかったんだ。あいつらしい。あなたの様子からすると隠してあるのかな」 奴の余裕な表情に苛立ちが募った。

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