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第156話 大野の想いと葛藤1
(大野語り)
あれから自席に戻り、仕事も手につかず、昼飯も食べずにぼーっとしていた。
中村が河合の正体を思い出したようで、わさわざ俺に言いに来たが、うっとおしいだけだったので軽くあしらう。
正直頭が追いついていかない。今すぐにでもなごみさんに確認したい。だけど、一体何を確認すればいいのか分からずにいた。
河合がよりを戻したがっていることを伝えて、どちらかをその場で選んでもらえばいいのだろうか。おそらく、隼人君を選ぶよと彼は優しい目で言ってくれるだろう。安易に想像ができた。
たとえ本音は河合の元へ行きたくても、なごみさんは俺を選ぶだろう。
あの人はそういう人だ。自分の本心を押し殺してまで俺に合わせる。
俺の物だとか、俺が幸せにするとか、河合に煽られて言った台詞には違和感があった。
なごみさんに対してはドス黒い独占欲が根底にあるものの、大半は彼の幸せを願い、守ってあげたい庇護欲で占められていた。彼を傷つける物から出来る限り守りたい。ずっと笑っていて欲しい。笑顔を守ることが俺の生き甲斐だと思っていた。
もし本心から河合と共に居たいのなら、しょうがないと俺の9割は納得する。綺麗ごとに聞こえるが、幸せでいてくれるのなら遠くから見ていても構わない、最大限の格好をつけている自分だ。
後の1割は、そんな自分の裏でいつも不気味に笑うエゴの塊だ。なごみさんの本心は関係無く、どんな手を使ってでも俺の傍に置いておきたいと願っている。占める割合は少ないが、あっと言う間に飲まれてしまう、どす黒く繁殖力の強い感情だ。
2つの感情がせめぎ合い混沌としている。だからどうしていいのか分からなかった。
もう、河合も未央とかいう助手も視界にすら入れたくなかった。午後も引き続き撮影の手伝いが残っていたが、課長には急な案件のフリをして許可を取り外へ出る。何か言いたげな中村は放置して来た。
8月の日差しがアスファルトを照りつけ、熱風が上がってくると汗が噴き出す。
抱えているスーツの上着ですら野暮ったく感じる程だ。
行き先は決まっていた。 河合となごみさんが付き合っていた頃を知る人物に心当たりがある。
その人は1年前、自身の鍼灸院を開業している。兄貴はまだそこへ足繁く通っているようだった。会いに行ったら嫌味の1つや2つは平気で言われるだろうなと思いながら、地下鉄に飛び乗った。
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