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第161話 大切な人3

(なごみ語り) 「ごめん。諒の気持ちには応えられない。僕には大切な人がいて、その人は僕の全てなんだ」 案外あっさりと断りの文句が口をついて出た。その時、握られた手が緩んだので、自身の手をさっと前に引きよせて膝上に隠した。あんなに好きだったのに、別れようと言われた時は身を切られる位辛かったのに……今は僕が断る立場になってしまったとは。 おかしな状況に苦笑した。 「どうしても…ダメか?すぐに俺を選んでくれとは言わない。まずは時々会ってくれるだけでいいから……」 「それも……ごめんなさい。考えられない。隼人君が悲しむ姿を想像するのも嫌なんだ。諒には感謝してる。諒がいなかったら今の僕はいないから。本当にありがとう。だけど、僕たちは恋人に戻ることはない。今も、ずっとこれからも……ね」 僕はしっかりと諒に語りかけるように話をした。諒の視線はずっと下を向いている。 分かってくれたかな。 「じゃあ、友達は?友達でも駄目なのか」 「えっ、友達………?」 畳み掛けるように諒が言った。 友達、諒と友達。考えた事も無かった。そもそもこういう関係は成立するのだろうか。 言い回しの問題でやることは変わらないような気がする。何事にも動じず、物静かなイメージだった諒の必死で頼む姿は意外だった。 「せめて友達でいさせてほしい。頼む。会ってくれなくてもいいから」 諒が僕に頭を下げたので、僕は仕方なく了承することにした。友達ぐらいならいいかな、と思ったのだ。これ以上僕の中の諒を壊さないでほしかった。 「分かっ………」 「駄目です。友達って口実で下心が丸見えです。俺………間に合いましたよね?さっき東さんから電話貰って、すっ飛んで来ました。取り敢えず、水を貰えますか。あっちい……」 被せるように背後から声がした。 炎天下を走って来たのだろう。赤い顔で息を切らし、汗だくの隼人君が必死な形相で立っていた。僕は驚いて思わず立ち上がり、彼に水を差し出した。一気飲みをして、息を整えている。 「河合さん……もうなごみさんを解放してあげてください。俺の同伴が条件ですけど、いつか飯でも食いに行きましょう。外でずっと待ってる未央君も一緒に。不安そうな顔で立ってましたよ。あの子こそ熱中症で倒れるかもしれない。大丈夫かな」 未央君……って誰のことだろうか。 いまいち状況がつかめないでいると、諒の顔色が変わった。どうやら諒の心が騒めくくらいの効力がある名前らしい。 「未央が?どうして……」 「知りませんけど、心配だったんでしょうね。後は本人に聞いてください」 「………俺は諦めないから。なごみ、またな」 捨て台詞を残し、諒は足早に店を後にした。ふと入り口を見ると、僕より背の低い男の子が諒の腕の中へ倒れるのが見えた。 諒はその子を抱え、様子を見守っていた僕たちに軽い会釈をして去って行った。

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