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第165話 大切な人7
(大野語り)
あまり長い間見ていると怒られるので、堪能した後は自分の食事の準備に取り掛かる。
なごみさんは用意した分を全部食べてくれた。俺も軽く素麺を食べる。
早く横になるように勧めても、一緒に寝たいと言い張るので、しょうがなく寝る準備をする。最初はうつすと悪いからと言っていたくせに、俺が帰らずに看病することを決めたら遠慮なく甘えてきた。
そんな所が可愛いし、嬉しい。こういうなごみさんを誰かに惚気たくても、俺たちを知っている人が少なく、残念で仕方がない。
なごみ菌なら貰っても構わないと思った。急いでシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かした。
「なごみさん、寝ますよ。こっちに来てください」
「…………はい…………」
ソファでボーッとテレビを見ていた病人に声を掛け、ベッドへ招き入れた。
それぞれタオルケットに包まり、向かい合って横になる。見た感じなごみさんはかなり眠そうだった。髪を撫でながらおでこに触れる。つるつるの、まあるいおでこだ。
「熱は………まだありますね。さっきは裸で何やってたんですか?」
朝までに下がらなければ休むように言わないと。この社畜は無理してでも会社へ行きそうだ。
「うん。薬、探してて。風邪薬が欲しかったんだ。折角隼人君が来てくれるのに、身体が怠くて寒気がするから焦った。だって、すぐに出来るように後ろも準備したのに………残念。したかったな」
なごみさんが半分寝ながらとんでもないことを口走ったのだ。
今の言葉は即襲いたくなるくらいの効力はあった。俺のために準備してくれたんだ。
愛しい人が自ら後ろへ指を挿れている様子が浮かんできて、俺の下心を刺激する。ついでに息子も引き攣るように疼いた。男って単純だな。
どうやらなごみさんは、熱があると平常モードからネジが何個か取れるようだった。
「治ったらしましょうね。もう寝てください。熱、上がりますよ」
引き寄せて熱い額に軽く口付ける。
俺ができる精一杯の愛情表現だ。これ以上だと襲うしか選択肢は無い。
「………隼人君は諒にヤキモチ妬いた?パネルも知ってたくせに、聞いてくれなかったもん……興味ないかと思った」
いきなり河合に話題が飛ぶ。
普段より感情表現が素直な恋人に、俺が翻弄されていた。
「妬きましたよ。俺の知らないなごみさんがいるのは事実なんで。聞かなかったのは、何から聞いていいか分からなかったからです。つまりパニックになって、凹んでました」
「僕はいつでも隼人君が1番だから、凹むことないのに。もっと僕を怒っていいんだよ。
昼間も来てくれてありがとう。実は諒が怖かった。自分の中で完全に終わったことだし、2度と始まることは無いと確信した。
隼人君………大好きだよ。ずっと一緒にいようね。僕を傍に置いてね」
すりすりと頭を俺に擦り寄せて、熱のこもる甘い声でなごみさんが言う。
あああああ、ヤバい。もう無理だ。
我慢の限界がやって来たと思うより先に手が出ていた。
頰に手を添えて荒く口付けをすると、なごみさんは驚いたように目を開けた後、すぐに応えてくれた。熱い舌がぬるりと口内を優しく包む。
病人なのにすみません、と頭の隅に謝罪が浮かんだが、やめる術が分からなかった。
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