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第171話 大切な人13
(なごみ語り)
あれから、抜かずにもう1回やったところで僕がダウンした。
あれだね、風邪の時は緩いやつを1回のみにしたほうが良いと思う。挿入も控えたほうが懸命だ。結果的に明け方まで高い熱にうなされた。夏風邪を侮ってはいけないという隼人君の言葉が頭の中でリフレインする。
起きると朝の9時を過ぎていた。かなり焦ったが、テーブルのメモ書きを読んで僕は一息つく。決して上手とは言えない彼の字は、とても愛嬌があった。メールではなく手書きという所に隼人君らしさを感じて笑みが溢れる。
『おはようございます。身体はいかがですか?朝ごはんはお粥を作っておきました。良かったら食べてください。
あと、東さんから今日はゆっくり休むようにと伝言を預かってます。午前中は病院へ行って、薬を飲んで寝ること。また夜に様子を見に伺います』
まだ身体は熱っぽかった。散々飛んだ精液やローションも綺麗に拭き取られている。シーツも変えられていた。寝てる間に隼人君がやってくれたようだ。
それに、室長へも連絡してくれたようで、彼の面倒見の良さに感謝した。そういう所も大好きだ。
病院……行かないと怒られるよね。
僕は健康保険証を出そうと、クローゼットの扉を解放した。
クローゼットを開くと嫌でもあのパネルが目に入ってくる。諒の原点であり、僕たちの始まりだった写真だ。久しぶりに取り出して見つめた。相変わらず、これより綺麗な空は見たことがない。
ん……もう何も感じない。だけど、不思議と捨てようとは思わなかった。ふと、メッセージが書いてあったことを思い出し、裏を見ると諒の下に新しいメッセージが増えていた。
『お誕生日おめでとう。愛しているよ。R』
『俺の方がずっとずっと愛しています。H』
大きくて愛嬌のある字は確かに隼人君だ。可愛くて思わず吹き出してしまう。
いつ書いたんだろう。捨てられない僕を分かっていて、罪悪感を感じないようにワザと彼が捨てられない理由を作ってくれたのだ。隼人君のメッセージが入っていたら尚更捨てられない。僕は目尻を拭い、パネルをそっと元にあった場所へしまった。
保険証を取り出し軽く着替えて、隼人君に言われた通り病院へ行く。
沢山の愛をくれる隼人君に僕は何をお返しできるだろうか。
いつもありがとう。
僕も隼人君を愛してるよ。
夜にちゃんと目を見て伝えるからね。
久しぶりに流した嬉し涙は、外の熱気で間も無く乾いた。
《これで、諒編終わりになります。ありがとうございました。ついつい大野なごみには甘くなってしまう作者でした。次は渉メインで話を進めようと思っています。よろしければ引き続きお付き合いください。》
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