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第181話 渉の恋10
(渉語り)
神社の階段を上ると、たくさんの人で賑わっていた。いつも真っ暗で夜は誰も寄り付かないのに、今夜ばかりは1年に1度の宴のために、辺りがオレンジの光に包まれていた。
ふわりと誘われるように奥へと進む。お祭りなんて何年ぶりだろう。忘れるくらい昔の記憶を呼び起こしても、はっきりと思い出せなかった。
早速まどか君は園児さんに会い、保護者の方と立ち話をしていた。僕が隣で話を聞くのも申し訳なかったので、1人でぶらつくことにする。
美味しい匂いにお腹が空いてきた。子供の頃に綿あめが好きだったことを思い出し、1つ購入する。見たことのない可愛いキャラクターの袋を選んで手に下げた。
屋台から発する熱で周りは更に蒸し暑くなり、目眩がするほどだった。
「渉さん……すみません。園児さんに会ったらスルーができなくて。お腹空きましたね。何か食べましょうか。あっ、綿あめ。渉さんに綿あめって似合わない……ふふっ……なんか可愛い。そのキャラクターは園でも人気ですよ」
「可愛い……?ははは。似合わないよね。無性に食べたくなったんだ」
それから、焼きそばとお好み焼きを買って、人混みから少し離れた境内の裏に座った。
缶ビールで静かに乾杯をする。よく冷えており、久しぶりにビールを美味しく感じた。
祭りにはしゃぐ子供達の声が遠くで聞こえ、見上げた夏の空には薄っすら星が瞬いている。時折吹く風が生温い。
それをぼぅっと仰いでると、まどか君が静かに語り出した。
「あの………渉さん。俺、あまり器用に言えないんですけど……あなたと出会えて良かったです。始まりがあんなだったけど、中途半端な関係を続ける訳でも無く、あなたからきっちりと線引きをしてもらったお蔭で、渉さんをちゃんと知ることができました。あなたはとても魅力的な人です。最初と変わりない………むしろ、どんどん好きになっていく」
焼きそばをつつく箸が止まる。
まさか今言われるとは思っていなかったので内心驚いていた。
すぐ近くには彼の逞しい肩があった。Tシャツ越しからでもよく分かる綺麗な筋肉だ。
彼と過ごす時間は居心地がいい。
「俺と付き合ってもらえませんか。渉さんと一緒に歩いていきたいです。流れる季節をこうして共に感じたい」
「……………えっ…………」
僕は同性が好きだ。恋愛対象は物心がついた時から男のみだ。男は独占欲が強い。そして本能的に相手を支配して、上の立場を選ぶ。洋ちゃん以外はすべてそんなタイプの人間と付き合ってきた。榊さんが典型的な例だ。
共に歩いていきたいという彼の言葉が胸に深く刺さった。寄り添ってくれる姿勢に愛しさを覚える。
素直に嬉しかった。僕はどう答えようか。
回答は単純でいいのだ。想いが伝われば問題ない。
「………まどかく………」
「わたるくーん、みーっけ。まどかせんせーも一緒だあ。なかよしさんだね」
僕が口を開きかけた時、僕を見付けたあゆむ君が笑顔を浮かべ全力で走ってきた。
つられて僕も笑っていると、後ろにいる新城さんの姿が見えた。
「歩。待ちなさい。待鳥先生、こんばんは。あ、まどか先生もご一緒なんですね。」
「え、あ、はい。こんばんは。」
僕が答えていると、まどか先生はぷいっとあさっての方向を見てしまう。
完璧にタイミングを失ってしまった。
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