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第238話大切をきずくもの21

(なごみ語り) 思いつきの食事会は、ロビーで緊張の面持ちで待っている隼人君と共に、母と3人焼肉屋で行われた。 ハッキリと口にはしなかったが、母さんは隼人君が僕の恋人だということに気付いていた。 ヘテロセクシャルではない僕をあっさりと受け入れ、息子の恋人という体で、隼人君と接している彼女を眺めていて思ったことがある。 遠回りしすぎて、もう二度と分かり合うことがないと決めつけていた親子関係でも、僕は母に育てられて良かった。どんなに常識が欠けていても、宝物を見つける術を教えて貰えたことに感謝している。 「なごみさん、本当によかった」 母と別れて、自宅へ帰る途中だった。誰もいない夜道で、僕達は手を繋いで歩いていた。夜風は夏の匂いがする。 「…………うん」 「清香さん、見た目と違ってかなり破天荒なんですね」 帰り際、僕の家に行きたいと駄々を捏ねたので、店前で待っていたカミヤに引き摺られながら宿泊先へ強制帰還となった。まだ暫く公演は続くようだ。 「あれでもマシになったほうだと思うよ」 「そうなんすか。子供の頃のなごみさんも大変でしたか。察します」 「隼人君が背中を押してくれなかったら、会うことも、話すことも無かった。感謝してる。ありがとう」 「俺は何もしてませんよ。決めたのはなごみさんです」 僕のアパートが近付いた時、張っていた気が解けて、どっと疲れが出てきた。急な眠気に襲われる。 母と和解できたとはいえ、どす黒い感情は消えた訳ではない。深い根っこの部分が少しづつ浄化されればいい。これは、時間を掛けて僕が折り合いをつけなければならない問題だ。 泣いてばかりいた昔の僕は、こんな日が来るとは思いもしないだろう。現に、今でも信じられない。 「何笑ってるんすか?」 「幸せだなと思って」 「き、ききゅ、急に変な事言わないでください」 「変なことじゃない。本当のことでしょう。隼人君、これからもよろしくね。ずっと傍にいて欲しい、僕の大切な人」 「はい……その言葉も貴方も大切にします」 ずっと二人でいたい。 手を繋いだまま、僕は隼人君に微笑みかけた。 今の僕には、悩んでいても一緒に立ち止まってくれる隼人君がいる。 彼は僕の宝物だ。 【END】

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