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第239話リバーシブルしませんか1
こちらは、円渉のリバになります。
地雷の方は御遠慮くださいませ。
(円語り)
世の中にはリバーシブルという言葉がある。
文字通り裏表使える衣服という意味だ。リバーシブルの服は1粒で2度美味しいと思っても、実際は気に入った面しか使わない。
俺の趣味は筋トレとBLだ。渉さんと住んでいる家にも、自室の本棚にBLがびっしりと並べてある。少女漫画的な視点で、男子が恋愛することの尊さが堪らないのだ。キュンキュンする胸のときめきは何にも変え難い。絵柄も丁寧で可愛い。
そして、ここ最近の俺は、BLから学んだ『リバ』という単語にいろんな意味で囚われていた。
「円君、読んだら片付けて」
今月の新刊を夢中になって読んでいると、仕事から帰ってきた渉さんにやんわりと注意された。渉さんはキレイ好きで、共同スペースを散らかすことを嫌う。
「……あともうちょっと」
「君は本当に好きだよね。こんな漫画のどこがいいわけ?」
「すごく面白いよ。読んでみる?」
「遠慮しとく。僕はノンフィクションしか読まないから」
数冊の本を丁寧に重ねて隅に寄せると、渉さんは洗面所の方へ歩いて行った。
俺はBL鑑賞を途中で中断し、夕食の準備に取り掛かる。帰りの早い自分が夜は大体作ることになっていた。放っておくと渉さんが何でもやってくれるので、せめてもの夕食当番だった。
保育士をしていて、筋トレしか脳の無かった俺は、渉さんという彼氏の存在で世界が変わった。完璧主義で、自らを律しながら生きている渉さんが、子供相手に日々奮闘している俺と付き合ってくれた。これは神様がくれたプレゼントだと思っている。
「ねえ、渉さん」
「ん……?」
渉さんは寝る前にいつもマッサージをしてくれる。スキンシップをして眠りにつくのが日課だ。
そして、セックスは基本平日にはしない。受ける渉さんに負担がかかるので、同棲開始時に話し合って決めた。
今日は土曜日で、明日は2人とも休みだ。暗黙の了解でセックスするんだろう的な空気が流れている。
「お願いしたいことがあって……」
「なあに?円君のお願いなら何でもきいてあげたいけど、内容によるかな」
「あの…………いや、やっぱやめとく」
「途中でやめるのはルール違反でしょう」
「…………」
「ほら、言って。言わないと、今夜はやらないよ」
『今夜はやらない』って、酷い言い様だ。足元を見ている。俺は渉さんを疎ましく一瞥した後、お願いを口にしようとしたことを酷く後悔した。
だけど、中断することはできない。
「……………………1度でいいので……」
「うん。1度、何?」
「渉さんに……抱かれてみたい……」
「…………ぇ」
俺の申し出に、渉さんが信じられないと目を真ん丸にした。
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